映画大好きそーやさん

不死身ラヴァーズの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

不死身ラヴァーズ(2024年製作の映画)
3.5
恋に恋する疾走乙女。
ずっと前に観て簡単な所感をメモに残し、今の今まで放置していた作品です。
本作に抱いた第一の意見は、詰め甘くなかったか?の一言でした。
放置していた理由は、上記の意見を抱いてしまったことが多分に関係しているように感じます。
というのも、内容面では一途な恋愛模様と、両思いの相手が必ず失踪(というか消失?)してしまうという、大変興味深いフックによって引っ張っていって、最後には一定の納得感をもって鑑賞を終えることができるのに、それが満足に消化できないほど、様々な箇所でノイズになってしまう撮り方であったり、演出であったりが見受けられ、一観客として残念に感じてしまったのです。
言いたいことが沢山脳内に溢れてしまい、それらを文章化していくこと、その労力を先延ばしにしたかったのだと思います。
前置きが長くなりましたが、ずっと先延ばしにする訳にもいかないので、満を持して自分の意見と向き合っていきたいと思います。
まず概要としては、先ほども少々要素を提示したように、長谷部りの(三上愛)が想い人である甲野じゅん(佐藤寛太)に何度も出会い、何度も両思いになるものの、両思いになった途端消えてしまう、さぁどうしましょうと、テンション高く疾走し続ける内容となっています。
とりあえず良かった点から書いていきます。
本作はあえて名前を出しますが、序盤から中盤に関しては『トラペジウム』に近い作劇になっていたように感じます。
具体的な情報を明かさないまま、好き勝手にストーリーを進展させていき、徐々に観客に分からせるといった構成ですが、ハッキリ言ってその点では、こちらが圧倒的によくできていたと思います。
確かに、序盤はいい意味でも悪い意味でもテンポ良く進み、何が起こっているのか、何がしたいのかが見えづらくはあるのですが、描写としてしっかりと誇張するような演出が加えられており、コメディ的なフックが観客を引っ張っていく要素となっていました。
1つ納得できるフックがあるだけで、作品の先を期待する気持ちというものは湧いてくるのです。
ネタバレはしませんが、人力車のシーンは大喜利として大いに笑わせてもらいました。
また、本作を最後まで通して観ると、ドラマやテレビアニメではなく、映画だからこそ成立した内容だったようにも思えます。
本作は良くも悪くも、序盤、中盤にかけては物語的な歪さが全面に出ています。
作品において序盤、特に冒頭は大事なシーンであり、そこでお客さんに納得してもらえなければその先を見てもらうことはできません。
そのため、本作のような癖の強い作風で、かつ共感、納得のラインをギリギリ超えている(あるいは、そのライン上にいる)といった場合には、この映画という形式が最も受け入れてもらいやすかったのではないかと考えています。
他にも、色鮮やかな住居が立ち並ぶ中、それらを背景に全力疾走するりのの姿は、とても画になっていました。
作品の勢いや、りのの抱える思いを視覚的に見せているようにも思え、鮮明に覚えているシーンの1つと言えます。
あと、終盤における、りのの幼馴染で親友の田中(青木柚)のりのに対する行動にも、私は惹かれるところがありました。
ラストカットについては解釈が分かれる部分だと思いますが、個人的にはあのカットがあることによって、少しは前半のハイテンションと飲み込みにくさを和らげる効果があったように感じます。(このカットの解釈につきましては、他の方の意見も聞かせてもらいたいです。是非観た方は下のコメント欄に書き込んでいって下さい!)
さて、ここから詰めが甘いのではと感じた点を挙げていきたいと思います。
冒頭も冒頭、病院のベッドで死の瀬戸際だったりのが、じゅんに手を握られた時、衰弱している筈なのに即座に顔を動かして上体を起こしているのには、流石に違和感を覚える私がいました。
全然動けてますやん!と、心の中でツッコんでしまったのは言うに及びません。
またプロデューサーや宣伝担当等、実際の制作現場から通達があったのかもしれませんが、情報が明かされないまま進行するタイプの作品としてテンポは良かったのですが、どうしても蓄積と言いますか、ドラマ部分の尺が足りていないように感じました。もう20分増やすだけでもかなり序盤のストレスは軽減されたと思います。(こうは言いますが、『トラペジウム』より断然マシです。ちゃんと笑えるだけ、制作陣は面白さの勘所を見失わずに作ってくれたのだと思います)
他にも、ギター演奏シーンは必要だったのかも甚だ疑問で、過去に消失した相手の要素がそれほど上手く料理されないにもかかわらず、ギターの演奏だけは入れてきていたので、じゃあ他の相手の分はないのかよと思ってしまいました。(陸上部男子に関しては、少々の回収がありましたね。それでも、クリーニング屋の男性や車椅子の男性は、触れられることはなかったと記憶しています。彼らにもフォローの描写があったのであれば、覚えている方に教えて頂きたいです。それらがあるなら、ここまでで展開してきた意見は、取り下げられます。この作品のためにも、是非ご協力よろしくお願いします!)
キリがないので、これ以降は詳しい説明なしに思ったことを書き連ねていきますが、最初の甲野じゅんとの再会シーンの違和感、田中の背景の不明さ、オチにあたる部分のりのの行動の不可解さ、タイトルのミスマッチ感等々、とにかく多くの疑問点を残して本作は幕を閉じてしまいました。(書き連ねたことで質問がある方もコメントを下さい。殺到しない限りは、1人1人懇切丁寧に伝えます)
私の理解力不足な部分もあるかもしれませんので、まだ本作を鑑賞していない状態で私のレビューを読んだ方は、これだけで判断するのではなく、ご自身の目で確かめてみることをオススメします。
作品の根幹にあるものはとても面白く、そのテーマ性をどれだけ深く受け取れるかで本作の評価は変わってくると思います。
総じて、全体的に粗は目立つものの、根底にある興味深いテーマ性に引かれて止まない作品でした!