社会生活を捨てて大きな段ボールを被ったまま穴から街行く人を観察する男で、かつて自分がそうであった様にその立場を狙う何者かからの襲撃を受ける「箱男」。治療勧めてきた美しい女性・葉子や彼女が「先生」と呼ぶ箱男の乗っ取りを図る男、その背後にちらつく軍医の存在。現と幻が解け合う箱男の混沌の日々を描いたドラマ映画です。
『砂の女』らで知られる芥川賞作家の安部公房が上梓して「アンチ・小説」の手法が賛否両論を呼んだ小説を、映像化を託された石井岳龍が一度は資金難で頓挫しながらも諦めることなく制作を目指して安部の生誕百年の2024年に公開した作品で、ベルリン国際映画祭で世界初公開されると独特の解釈での映像化が原作同様に話題を集めました。
いかにも文学らしいあたかも世界を作り上げる「創作」が現実を侵食していく物語で、そのコンセプトに強い世界観を持つ監督の資質が呼応します。それを映画として昇華するにあたっての工夫は予想の付くものであって強い驚きを与えるまでは至りませんが、失うことない初期衝動で「アクション」映画にする、エナジー感じさせる一作です。