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メフィストの誘いのimpreのレビュー・感想・評価

メフィストの誘い(1995年製作の映画)
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始まって5分くらいのカトリーヌ・ドヌーヴのクロースアップから普通じゃない。一般的なクロースアップよりもカメラは遠いところに置かれ、画面に占める主題の大きさも比較的小さい。ドヌーヴの顔が空間から浮遊してるように見える。オリヴェイラのクロースアップはこのようなものが多い。これはストップモーションアニメや舞台劇をカメラで撮った映像と似た感覚だ。
それからマルコヴィッチ夫妻が泊まる部屋に案内された際の2人の会話シーン。明らかに小津を意識した正面からの切り返しがある。これもまた意表をつく素晴らしいショットだった。オリヴェイラは話が特異なものが多いから、独特な作風の作家だと言われることが多いがそれは全くの誤りだ。彼がやっていることは、「現実」を、光線やカメラ、運動によって、つまり映画的な手段を用いて、秩序立てることであって、それは映画黎明期から才能のある映画作家たちが行ってきたこととなんら変わりないことだ。実際、90年代に撮られたおそらく最も美しいショットの1つであろう、映画中盤のレオノール・シルヴェイラのバストショットは、書庫で男女が見つめ合うというなんの面白みもない出来事を、一度見たら絶対に忘れられない体験に変えてしまう。本を読む場所であるとは到底思えないほど暗い書庫で、窓から入る光を頼りに本を読むというご都合主義的な主題は、そのご都合主義ゆえにショットの素晴らしさを増強する。外からの光に照らされたシルヴェイラの媚態に、主人公のマルコヴィッチが恋してしまうのと同じ体験を、観客も強いられる。そして映画も終盤、突如現れるスローモーションのカットを見てしまったら、もうこの映画の「森」から抜け出すことはできない!
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