創作者なら誰しもが経験する、創作の青い衝動。
ミニマムな作品ながら、『ルックバック』から連続する創作者のための作品として、かなり好みな内容でした!
見事に、終盤泣いてしまうほど没入して観ていたことを、鮮明に覚えています。
概要としては、MV制作にハマった主人公、朝屋彼方が偶然出会った路上ミュージシャン、織重夕の歌声に惚れ込み、とある縁があってMVを作らせてもらうことになるが……といったものになっています。
MV制作という斬新な切り口から語られる「創作」は、一貫して作り手の視点で描かれ、何か自らの手でモノを作ったことがある人には軒並み刺さったのではないでしょうか?
ネットに公開した創作物の反応というのが本作には何度か描かれるのですが、自分が創作者の端くれとして作品を公開した際にも概ね作中と同様の反応をされました。(というか、今もされています。これは、朝屋彼方が受けたものもそうですし、織重夕が受けたものもそうです。その時その時によって、変わっていきましたね)
こういった、当事者だからこそ分かるネタ(しかも現代的な内容)が盛り込まれていることも若者を中心とした現代の創作者に寄り添っているなと感じられ、細部までリアルな作品だなと圧倒されるばかりでした。
表層的なところでは、劇伴も作品世界をよく理解し寄り添い、何倍、何十倍にも作品の魅力を深めていたと思います。
また作品の構造として、メインのキャラクター2人には辞めた、もしくは辞めるという立ち位置が用意されていて、それらは駆け出し(初心者)の主人公と対応していました。
その2つの対比軸が、終盤の「エール」を贈るという展開につながっていく脚本は、シンプルでありながら美しく、短尺であってもしっかりと観客を置いていくことなく、感情移入させる作りになっていたと思います。(様々な立ち位置のキャラクターを登場させたことで、通り一遍でないあくまで最初期を主軸に置きながらも、それ以外の人が見ても楽しめる作りにはなっていたと思います。長年鳴かず飛ばずで辞めようとしている創作者、中途半端な状態で大きな賞を貰ってしまい、自分の作りたいものが分からなくなっている創作者、井の中の蛙な駆け出し創作者と、ほど良いグラデーションができているのではないでしょうか?)
キービジュアルや予告編から分かる通り、アニメーションの癖はかなりありますが、観ていくうちに慣れていくと思いますので、その辺りは心配いりません。
創作者と言っても、本作では所謂駆け出しあるあるを詰め込んでおり、『ルックバック』のような長いスパンでの葛藤や苦悩が描かれている訳ではありません。
本作は『ルックバック』から図らずも差別化したことで、期間を最初期に絞ったからこそ、その中で描ける最深のドラマにまで到達していました。
創作始めたてで何もかもが楽しい、試行錯誤の過程に多大な喜びを見出すような、多幸感たっぷりなシークエンスも用意されていますが、決してそれだけには留まらないのです。
上記したような対比構造を用いて、浮かび上がらせてくる彼方の立ち位置と課題は残酷で、解決に向けてひたむきに努力する姿は創作をしている身からすると、格好いいの一言に尽きると思います。
正直突き付けられた事実は、筆を折ってしまっても、歩みを止めてしまってもおかしくないものでした。
誰しもが経験する挫折で、何人もの脱落者を生む難関でありながら、彼方の天性の真面目さや、素直さで立ち向かっていく。それだけでこの作品を観て良かったと、心から思うことができました。
そして終盤も終盤、彼方が全身全霊で制作したMVの内容を観ることが、実質のクライマックスになっているところも素晴らしく、思わずそこで感極まって涙を流してしまいました。
アニメーション表現さえ乗り越えれば、あとは多層的な脚本と根底に流れる創作者への「エール」に静かに感動できると思います。
総じて、尺自体は短いながらも、MV制作という切り口の斬新さ、酸いも甘いも照らし出す創作の初期衝動に、心を押し潰される作品でした!