義民伝兵衛と蝉時雨

旅芸人の記録の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

旅芸人の記録(1975年製作の映画)
4.7
ギリシャの歴史を通して見る20世紀の世界の縮図。独裁から占領、占領から独裁。20世紀のギリシャの歴史。ドイツ、イギリス、ソ連、アメリカ。押し寄せる異国の脅威。自由を取り戻す為に奮闘したレジスタンス達の日の目を浴びぬ暗い歴史。自国を守る為に流れた多くの血。民族解放戦線の繁栄と衰退。あやつり糸で仕組まれた同胞同士の内戦。ドイツに代わり介入したイギリスに代わって絶妙なタイミングで介入するアメリカ。終わってみれば一時圧倒的に優勢だった左派の完膚なきまでの敗戦。アメリカの支援を受け、再び立ち上がる強固な独裁政権。時は流れ1975年、君主制が廃止され民衆が喜びに沸くギリシャのスクリーンに、これまで何度も繰り返されてきたあの忌まわしき欺瞞に満ちた束の間の喜びとその後に待ち構えていた悲劇を風化させずに歴史から呼び覚ます。今一度心に焼き付けて気持ちを引き締めて忍び寄る危機へと備えよ!と言わんばかりに民衆の心を過去の記憶へとフラッシュバックさせる。徹底的なロングショットと長回しが歴史そのものをひたすら客観的に捉えて受け手に現実を直感させるとても崇高な精神的映像体験。ワンカット内の同じ空間の中で往古来今を行き来するアンロプロス節の唯一無二の芸術性が映画界に日の目を浴びた瞬間。アンゲロプロス監督の名を世界に知らしめた極上の精神的一大叙事詩。噂通りの映画史に語り継がれるべき大傑作で興奮した。