Solaris8

旅芸人の記録のSolaris8のレビュー・感想・評価

旅芸人の記録(1975年製作の映画)
4.9
DVDをレンタルして、久しぶりに「旅芸人の記録」を観た。アンゲロプロス監督の作品は2014年に早稲田松竹で監督の遺作になったエレニの帰郷を見て以来、映画館で観た事が無い。

映画は、1952年の秋のエギオン駅で旅芸人の一行が降り立つシーンから始まるが、エギオンの街を歩いていると、選挙のビラが撒かれ、忌まわしい血の日曜日事件を望まない者は、パパゴス元帥に投票せよという宣伝スピーカーが鳴り響く。更に旅芸人一行が街を歩くと1939年秋のエギオンを歩くシーンに時代が遡る。複数の教会の鐘が鳴り響き、メタクサス大統領と独第三帝国のゲッベルス閣下がオリンピア見物をすると誰かが叫んでいる。

時々、映像が1952年頃と1942年頃の時間軸が入れ替わる二重構造になっているが、ギリシャの長い歴史を考えると繰り返される歴史の中で10年の違い等は大した意味を持たないのかもしれない。僅か13年の間に独、ソ連、英国、米国の大国に翻弄される、ギリシャ現代史の悲劇がギリシャ神話の中に甦る。

登場人物は、ギリシャ神話に登場する名前なので、登場人物の行く末が読める展開になっている。父アガメムノンはギリシャ軍に入隊し、長女エレクトラの弟オレステスはパルチザンとなり、母の情夫アイギスドスはナチス寄りだった。アイギスドスの密告で、父アガメムノンはオレステスの身代わりとして独軍に殺される。オレステスは、母や情夫に復讐を果たす。

父アガメムノンが独軍に銃殺される前に「自分はイオニアの海から来た。君達は何処から来たのか」と言い、右派に処刑された弟オレステスを土に埋葬する時、長女エレクトラが突然、拍手して見送るシーンにギリシャの誇りを感じる。

湿った重い雪が残る山道をアコーディオンを弾き、ヤクセンボーレを歌い踊りながら歩く旅芸人一行が行く末に見た悲劇が「旅芸人の記録」を物語る。曇天のギリシャの寒々した風景と、その空の下で時空を越えるようにさまよい歩くギリシャ市民、大国に蹂躙されても歌い続けるギリシャの力強い歌の数々が印象に残る。

1939年晩秋の早朝、旅芸人の一行がエギオン駅に降り立つシーンで映画が終わるが、この場面を見る度々に、「旅芸人の記録」をまた何時か映画館で観てみたいと思う。