砂

旅芸人の記録の砂のレビュー・感想・評価

旅芸人の記録(1975年製作の映画)
4.3
1939年から1952年までの戦時・政治的混迷を旅芸人一座を軸に数多の国難に翻弄されるギリシャを描いた一大抒情詩的大作。

先に書くと、この映画は舞台背景がわからないと本当にわかったと言えないタイプの映画であり、私はそういう意味で半分もわかっていない。

上映時間が3時間50分もある。さらにカット数が極めて少なく、長回しがほとんどでカメラもスローに場面を写す。BGMもないことから体感時間はさらに長い。
1952年を中心として、回想の体で物語は進む。

本作は2つの物語で構成されているように思う。
1つは旅芸人を軸とした”群”、歴史。もう1つは、娘役エレクトラの”個”、今(便宜的な)。

顔もよくわからないくらい広角なパンフォーカスで群をワンカットに収める画が多く、ある地点まではほぼクロースショットがない。登場する旅芸人、ナチス、パルチザン、英軍などは個ではなく群として常に集団である。まさに歴史を俯瞰しているかのごとく、観客は第三者として物語を観ていくことになる。
ある地点からエレクトラを軸とした物語となるが、この辺りからクロースアップが増え明らかに演出のトーンも変わってくる。
監督インタビューで語られる制作背景にあった、1つの時間軸で現代の問題を描いたというのも多分だがこの辺の表現に影響していると思われる。

ギリシャ史を知っていないとわからないことが多く、さらに映画的な象徴表現が核となっているため、4時間近く考えながら観なくてはならず1度でわかる作品ではない。
画面左右での対立や劇中劇になぞらえている展開など、長大な尺の中で見逃すと話がわからなくなるシーンが多いので、集中力を欠かさないよう観た。

個人的にクリストリッツァの「アンダーグラウンド」が好きなのだが、あれを観た後と同じような印象がある(演出のタイプなんかは別物だが)
陽気な音楽が悲劇性を強調してるところなんか実に似てる。

今はただ単純にすごい作品であるという感想だ。これだけ観てもギリシャの混乱期の状況がなんとなくわかる。
近代ギリシャ史をちゃんと勉強してから、いつかまた観たい。
砂