M・ナイト・シャマランを父にもつ映像作家、イシャナ・ナイト・シャマランの長編映画初監督作品。
とあるきっかけで森に迷い込んでしまった主人公が、ガラス張りの謎の小屋に導かれ、そこに滞在する人物たちと出会うのだが、生きのびるための奇妙なルールを知らされ… という導入から始まる物語で、ホラー小説を原作としている。
子役の頃から数多くの映画に出演してきたダコタ・ファニングが主演を務めており、その独特な透明感と熟練した演技力が作品の質を高めることに貢献している。
主要な登場人物は4名とかなり少ないが、助演のジョージナ・キャンベル、オルウェン・フエレ、オリバー・フィネガンの3名それぞれにも確かな存在感がある。
監督の父であるM・ナイト・シャマランが、娘イシャナの長編映画デビュー作ということもあって製作を全面的にサポートしていたとのことだが、良くも悪くも父の作風とそっくりで、ほぼ完全コピーといってもいいぐらい。
不気味ながらどこか美しくもある森の風景の切り取り方や、夜に鏡写しとなる室内シーンのアングルの狙い方には非凡なセンスを感じたが、一方で、何が起きているのか良く分からないカットや凡庸・退屈なアングルもあり、初監督作品だからなのかも知れないが、けっこうムラがあるなと感じてしまった。
ホラー映画風の導入から始まり、続いてSFのようでファンタジーのようでもある謎が提示されるが、中盤以降で物語が大きく展開し、終盤ではジャンルを理解や分類することの意義が分からなくなるところなどは、まさに父親譲りの強烈な個性といっていいだろう。
特に、映画脚本の三幕構成でいう第三幕の展開には、予想できなかった意外性があり面白いと感じた。
脚本の細かい部分については、何を書いても作品の核心部分への言及につながって未鑑賞の方の興を削いでしまうので、控えておこうという気持ちになるところも、M・ナイト・シャマランの作品と共通している。
物語の設定は原作小説に準拠している部分が大きいのだろうとは思いつつ、その細かい部分をツッコミ目線で観ると粗が色々目立ってくる部分まで父の作品と類似しているところは、ある意味とても面白い。
ただこの作品においては、序盤から提示されるモチーフの数々や人物達の言動にそれぞれ物語上の明確な意味があり、それが主人公のキャラクターアークの変遷や完成にしっかり関係してくるので、色々思わせぶりだったけれど空振りな結末だったという残念な読後感ではなかった。
次作品以降で、父親の手厚いサポートを離れ独り立ちしてからが、イシャナ・ナイト・シャマラン監督の真価を試される本当の機会になるだろう。
ちなみに、監督や脚本だけでなく出演もしたがる監督の父は、今作においては出演せず裏方に徹していたようだ。
娘のデビュー作ということもあって今回は遠慮したのかもと思いつつ、親子同士でのやりとりを想像してニヤニヤしてしまった。
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