一人旅

Zの一人旅のレビュー・感想・評価

Z(1969年製作の映画)
5.0
第42回アカデミー賞外国語映画賞。
コスタ・ガヴラス監督作。

舞台は地中海に面した某国。左派の政治家Z氏(イヴ・モンタン)は自由を求めた集会を開催。しかし、集会は反対勢力により妨害され、Z氏は暴漢の一人に殺害される。警察及び軍は事故死と決めつけるが、予審判事は疑問を抱き独自に捜査を開始する・・・。

某国という設定だが、実際には製作当時軍事政権下にあるギリシャ(監督の母国)政治の実態を描いた作品だ。
映画の展開としては地味だが、予審判事の緻密な捜査によって少しずつ事件の核心へと近付いていく様に緊張感が絶えない。

警察、軍、さらには国王支持の実行部隊・・・全てが敵だ。恐ろしいのは敵の姿が見えないところだ。実行部隊の面々も普段の生活は至って普通、平凡だ。どう見てもその辺にいる善良な一般ピープルだ。予審判事の捜査によって証言者を確保できたしても、背後に存在する巨大な力が働いて抹殺されてしまう。軍の上層部の人間が続発する事件に関わっているのは明白だ。しかし、人間というより、何か幽霊のような、実体の掴めない未知の敵と戦っているような印象を受ける。心底不気味だ。
軍の圧力や陰謀によって個人の自由が潰されるという恐怖。軍を相手にしたら一個人なんて無力だ。何もできやしない。

ラストシーンはギリシャの政治史そのものだ。
政府の崩壊、その後のクーデターによる軍事政権の誕生までの過程が淡々と語られていく。そこには感情は一切ない。ただ淡々と事実が語られていく様は軍事政権の非人間的な冷たさを象徴しているようだった。
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