フラハティ

Zのフラハティのレビュー・感想・評価

Z(1969年製作の映画)
4.5
タイトルの『Z』の意味とは。


1963年にギリシャで起きた、グリゴリス・ランブラキス暗殺事件を元に映画化。
冴え渡る演出と、荒々しく鳴り響く音楽はまさに稲妻のよう。
コスタ=ガヴラスの『告白』、『戒厳令』の二作とともに、政治三部作と呼ばれ、その始まりとなる本作。

政治サスペンス映画として傑作。
一人の反体制派の男が暗殺されたことで、国家ぐるみの事件に発展。
最初は事故として処理されていたが、その裏には大きな闇が潜んでいた。

大枠としてみればなんてことないストーリーなんだけど、とにかく緊張感がすごい。
前半では暗殺事件が起こるまでの反体制派を。
後半では予審検事、そして記者が真実というものを探っていく。
特に後半にかけての疾走感は圧巻。
かなりずさんとも言える事件の真相であったとしても、権力があればまるで何事もなかったかのように消されてしまう。
正義のためではなく、自らの仕事を全うするために闘う予審検事の勇姿は真の男。
重厚でありながら、エンタメ的なノリも忘れることはない。

軍事政治であった当時のギリシャ。
『設定された人物などは意図されたもの』という監督の強気の姿勢自体が、作品とそのキャラクター、そして事件に不思議な力強さを残していく。


政府によって抑圧された反体制派。
争いを収めるための集会により、争いへと発展してしまう。
真の平和のために光が闇へと葬られる。
そして闇という存在が光として扱われる。
"暴力と欺瞞"により妨害を受ける。
警察も軍も信用できない世の中で、正義として立ち向かうことはできるのか。


題材となった事件自体がすごい面白いっていうのもあるんだろうね。
政治色がかなり強いだろうが、僕はこの時代のギリシャのことは詳しくはない。
でも面白い。
綻びが見えすぎる出来事が、何でもない事件として抹殺されてしまうという恐怖。
理詰めで追い込んでいくというサスペンスとしての醍醐味。
巨大な権力に従わざるを得ない国民と、反抗することすらままならない国民。

後半で新聞記者と予審検事が主軸となることで、前半の政治的な色味が薄まり、純粋に真実を報道することと、正当な法の裁きを下すことという点に焦点を変えたのはお見事。
まだ事件の段階と何度も語っていた予審検事が、暗殺と認める発言をしたシーンが上がるよね。


"思想とは、人を蝕むものだ。
だから摘み取らなくてはならない。"
この考え方が当時のギリシャ。

事件が終焉へと向かっていく感動と、その裏にある苦しい現実。
今まで観てきた事件ってなんだったんだろう。
エンドロール直前で『Z』の意味を知ったとき、救われたような気持ちになる。
フラハティ

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