ウーリー・ロメルがアル中の胡散臭い手品師でイングリット・カーフェンが流れ者の歌い手。ファスビンダーが亡くなったあとでも、その思いを引き継いでいるようで最高。カーフェンには歌わせたくなるシュミット、ゆったりとした歌声もあの独特な顔もカーフェンが戸川純に見えてきたりも。
幼少期と今の自分(おっさん)を重ねる構成、いくつもの小話を挟んだりしてウディ・アレンの匂いもしたが、まあ元はどちらもフェリーニか。
様々な知らない誰かが集まっていて、どこか現実から逃避するようにみなやけに楽しげで、でも実はそれだけではないのもなんとなく感じていて、大人のエロスやキチガイ病院、死もあれば精通も孤独もあるが、それらのすべてが憧れと共に「失われた思い出」としてこの地(廃ホテル)に封印されている。
海が見えない山のホテルで、その探し求めていた部屋の窓を開くと海が見えるラスト。虚構と現実と記憶と幻、もちろんこうして終わるのを期待していたはずだが、いざスクリーンで向き合うと、これだけ美しいラストがあるのかと、何度見ても心が震え、それはノスタルジーとはまったく別の純粋な「映画」の素晴らしさに撃ち抜かれ、ただただ涙してしまう。