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ラ・コシーナ/厨房のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ラ・コシーナ/厨房(2024年製作の映画)
3.5
【色彩を失った人種のサラダボウルに色を与えると団子になる】
ついにメキシコの異才アロンソ・ルイスパラシオス監督作が日本で劇場公開される。アロンソ・ルイスパラシオス監督はベルリン国際映画祭の常連であり、本作以外は何かしらの賞を獲っている強者だ。日本では、ラテンビート映画祭やNetflix止まりだった監督ではあるが、ルーニー・マーラが出演しているためか、遂に一般公開が決まり嬉しいばかりである。

本作は『逆転のトライアングル』で描かれていたあまりにも表層的過ぎる階層間の断絶を掘り下げていったような内容である。NYにある観光客向けレストランで働く移民たちを描いている。観光客からすれば厨房で働く人は「スタッフ」と群として捉えてしまうが、スタッフ個々にもバックグランドがある。この構図を象徴するように白黒で描いており、黒人も白人も等価な存在として描かれている。だが、カメラは仕事中にこっそり薬を摂取する存在や人生に行き詰まりを感じている瞬間を捉え続けている。

本作が興味深いのは途中で2度大きく空間の色彩が変わる点にある。アロンソ・ルイスパラシオス監督はジャンル横断を得意としており、『グエロス』では行き詰まりを見せる青春にロードムービーの構造を当てはめつつ、そこに停滞をを仕込んでいた。『Museo』ではジャン=ピエール・メルヴィル的犯罪劇からロードムービーへと転がる。『コップ・ムービー』は警察24時的な話をドキュメンタリー/フィクションの反復横跳びでメキシコ警察事情を解体していった。今回は、色彩変更をメインとして「スタッフ」という群と個の関係を紐解いていくのである。我々が何気なく匿名的な存在として見てしまっているものへアテンションを向けるためにスローモーションも効果的に使われており、『逆転のトライアングル』に足りなかった要素が補えた一本であった。
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