“厨房は、世界の縮図。”
熱々なストーリーとクールな編集/カメラワークの絶妙な組み合わせを召し上がれ。ある大衆レストランの一日を舞台に詰め込まれすぎたフルコース、サラウンドで鳴り止まぬ食器とオーダーマシンの音。終わった後にはお腹も頭もいっぱい。これぞ映画体験。
資本主義に対するアンチテーゼ、移民問題、貧富の格差などの政治的なテーマを扱っているけれど、結局これはあの“厨房”の中で夢を追いかけていく話。原作の“調理場”にもあるように、夢を見る暇もないかもしれないが、生涯の友を見つけるかもしれない、と。日本で暮らしていると、生きるために必死で働くという経験やイメージがあまり湧きにくい。自分が学生時代飲食店でアルバイトしていたとき、別にクビになったところで人生に影響があるわけではないのに、それでもラッシュタイムではカオスに働いていたのを思い出した(笑)。それがもし、人生や生活をかけた職場だったとしたら、あの毎日のラッシュタイムはどれだけの重みがあるのだろう。
大味で魅せる映画だけど、撮影や音響は本当に繊細で、14分間のワンカットラッシュタイムの素晴らしさは言わずもがな、それぞれのシーンで細部まで感じる拘り。劇場で観ることで、特に“音”が厨房にいるようなリアルな体験を生んでいる。これは名監督達も嫉妬。エステラ役の女の子が撮影でアメリカに行くためのビザ取得に一年以上かかったのも、作品をかなり選ぶルーニー・マーラがこの作品を快諾したのも、焼肉屋のバイラアイスくらい嬉しい。
暇があればスマホでYouTubeを見ている現代だけど、朝から晩までビール掻き込んでアドレナリン出しながら働いて、休憩では倒れ込むように崩れて、それでもその中で友や愛や生きがい模索していく様はなんだか眩しく見えたりもした。好き嫌いはハッキリ分かれそうだけど、自分はここ最近でもかなり好きな作品です。