幽斎

ピアノ・レッスンの幽斎のレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(2024年製作の映画)
4.0
ピューリッツァー賞を受賞したAugust Wilsonの同名戯曲を原作に、家宝のピアノを巡って対立する家族の葛藤を描いたヒューマンドラマ。Netflix映画。

原題「The Piano Lesson」。良くご存じの原題「The Piano」Jane Campionの邦題ピアノ・レッスンとは無関係。本作は制作陣のメンツが凄い。原作者August Wilsonは「黒人アメリカの演劇詩人」、Hollywoodのウォーク・オブ・フェームに星を刻まれた。偉大な演劇界の巨匠、アメリカ文学界の宝として日本人も知っておくべき。

原作者にトリビュートするのが、オスカー俳優Denzel Washington。素の本人と同じインテリで真面目な性格の人物を演じる。私のレビューでも常連「リトル・シングス」「イコライザー THE FINAL」「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」。既に「フェンス」でWilsonの戯曲を映画化。監督と主演を兼ねアカデミー作品賞、主演男優賞ノミネート。第2弾「マ・レイニーのブラックボトム」本作と同じ製作として参加。

第3弾を任されたのは、Malcolm Washington監督、Denzelの息子!。本作が長編映画初挑戦、30歳前半の若さで、しっかり他の作品で下積みを積んだ上、父親のお眼鏡に叶い、新人監督とは思えない落ち着きの有る才能の片鱗を魅せた。父親の天賦の才を継承する上質な仕上がりに素直に驚く。戯曲の映画化は初めてでは無いが、監督は2022年の舞台からインスピレーション(後述)。

主演はレビュー済「TENET テネット」John David Washington。父が制作、長男が主演、弟が監督、何だ家族ムービーかよ!(笑)。レビュー済「ブラック・クランズマン」、ゴールデングローブ男優賞ノミネート、父親譲りの演技派。Denzelは同じ黒人の偉大なる先輩Sidney Poitierから「俳優のイメージは最初の作品数本で決まる、己の選択を見誤るな」教えを守り、黒人の登竜門コメディに出演しなかった。

Samuel L Jackson、放送禁止用語でお馴染み(笑)。アカデミーから品が無いと毛嫌いされるが功績は無視出来ず、アカデミー名誉賞。千葉真一の熱狂的ファンで、千葉が「パルプ・フィクション」現場を訪れた時は直立不動で出迎えた。千葉が演じた柳生十兵衛のキャラクターを、ニック・フューリーに取り入れた。Wilsonの戯曲には1987年に出演。2022年の戯曲ではJohn Davidとも共演。

「Black Southern Gothic」南部ゴシックと呼ばれるカテゴリー。黒人奴隷、若しくは名残を受け継ぐ舞台で、プロットは「黒人一家に受け継がれるピアノ」。年季の入った木製のピアノ、独特な彫刻が施されるが、ソレは家族しか知らない深い歴史が隠された。August Wilsonの原作映画が劇場で観れないのが、唯一の心残り。

【ネタバレ】自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

原作者は「ピアノ・レッスン」に関して、「過去を否定する事で自尊心が得られるか?」テーマと語るが、戯曲化された台詞の応酬とは別に、映画らしい名優の演技合戦が見所。秀逸なのはキャラクターに割り振られたテーマを、原作者の思惑通りに突き付けて人物の葛藤を上手く描いてる。観客にプロットの核心を意図的に見せず、背景を知らせぬまま進行。ヒント「イエロードッグの幽霊」意味深に言及。

原作通り家族の歴史に関わるモノで、Samuel L Jacksonの語りで明らかに。奴隷所有者の白人は妻へのプレゼントとして同じ白人のピアノに目を付け、自分の奴隷と交換。選ばれたのはドーカーの祖母と父(子供)。後に地主の妻は奴隷が恋しくなり、祖父ウィリーに居なくなった奴隷をピアノに彫る様に命じた。しかし、ウィリーは先祖全ての歴史を彫って見せた。そして、月日は流れ事件が起きた。

父親は歴史の詰まった特別なピアノを欲し、兄弟でピアノを盗む事に。しかし、所業はバレて、イエロードッグ汽車に乗り、車両ごと燃やされ死んでしまう。それから関わりの有る白人が次々と井戸に落ちて死亡。犯人は殺された黒人の怨念でイエロードッグの幽霊と噂が広がり、今度は白人が怨霊に為って黒人達を苦しめる。

同じ原作者「フェンス」較べ、本作は父親不在で女性が鍵を握る。ピアノは男達が所持欲で盗んだモノ。管理するのは他ならぬ母、ずっとピアノに縛られた。誰よりも歴史を直視させられ、心の苦しさを察した事は有るのか?。「過去を否定する事で自尊心は獲得するか」は、「奴隷を愛でる事で家父長制の慰めを感じた白人妻」と「奴隷と家父長制の重圧で2重に苦しんだ黒人妻」、同じジェンダーでも歪な構造も浮かび上がる。ピアノは一生憑いて回る「宿命」レトリックと私は感じた。

人の歴史は売り飛ばせない、過去を否定しても自己肯定は上がらないのが現実。

幽斎さんの鑑賞した映画

幽斎

幽斎

もっと見る