シズヲ

ルックバックのシズヲのレビュー・感想・評価

ルックバック(2024年製作の映画)
3.8
何だかんだ評判が良かったのと周囲の知り合い達が見ていたので、結局見ることにした。藤本タツキは特段好きな作家ではない(『チェンソーマン』もそこまで好きでもない)けど、現代少年漫画にインディペンデント的演出を持ち込んで映画のような作劇と地続きにしているところはやはり興味深い。

近い時期に上映された『数分間のエールを』とテーマにおいて共通する部分もあるけど、ポップに着地させていたあちらと比較すると本作はより鬱屈や求道の果てに訪れる救済を突き詰めている。“才能の差”や“挫折”という創作者に立ちはだかる苦悩を相互肯定による小さな青春によって包み込み、そこに藤野と京本という二人の創作者に対する激励をぶつけている。自らの行動による藤野の後悔に対して“もしもの未来”によって京本が救われる世界を提示し、その京本が巡り巡って藤野の苦悩をも救済するという“空想の魔法”は原作でも印象的だった。

藤本タツキの作画は漫画性と写実性の狭間を行く独特の味があるけど、本作はその辺りの魅力を良い感じにアニメーションへと落とし込んでいると思った。藤野も京本も原作の絵柄をベースに生き生きと表情が描写されているので、二人が過ごす時間に対してしっかり感情移入を抱くことができる。藤野の声を当てた河合優美の演技も良い感じで、漫画家として売れた彼女がアシスタントに電話する場面の自然な喋りが好き。所々で原作から踏襲・発展させたが故に却って違和感のあるカメラワークもあったとはいえ、要所要所のカットも悪くない。漫画を描いている際の“後ろ姿”は原作と同じく味わいがあり、二人が離別する際の樹木を挟んだロングショットなども印象に残る。

ただ、アニメ的演出が原作の哀愁を容赦なく打ち消している部分が多々あったのも否めない。藤本タツキの漫画って特異なほど淡々とした語り口が特徴だと思ってて、あれだけ派手なことをやっている『チェンソーマン』すら驚くほどドライな作風で描かれている印象が強い。しかし本作は感傷的な描写が幾度となく挟み込まれ、またアニメとして(時おり過剰に)盛られた演出も相俟って、肝心なシーンで原作の雰囲気を削ぎ落としているように思えてしまった。特に劇的な音楽によって堂々と感動を誘おうとしていたのは流石に違和感を覚える。そしてこれは原作漫画からだけど、京アニ事件からのあからさまな引用には正直節操の無さを感じるところはあった。

SNSでやたらと持ち上げられていることに思うところはあったし、所々の演出の過剰さなどで鼻につく部分もある。原作の魅力によって担保されている箇所も大きいとはいえ、蓋を開けてみれば何だかんだ結構良かった。
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