このレビューはネタバレを含みます
1:表現:★★★★★
押山清高監督は、原作の藤本タツキの世界観を尊重しつつ、自身の解釈を加えた演出を施しています。特に、創作の孤独や複雑な感情を繊細に表現した点が評価されています。
2:音楽:★★★★☆
ハルカ・ナカムラが手掛ける音楽は、本作の持つ レクイエム のような雰囲気を強調しています。音楽が物語に溶け込み、登場人物の心情を言葉を超えて伝える場面が見所です。
3:キャラクター:★★★★★
作品の中心となる藤野と京本のキャラクターは、創作に没頭する者同士の友情やライバル関係を超えて、互いに影響を与え合い、人生を変え合う存在として描かれています。この関係性が、時に現実の悲劇的な事件とも重なる要素として描かれており、深い印象を与えます。
4:葛藤:★★★★★
本作は 創作とは何か 、 なぜ描くのか という問いを根底に持っています。何かを生み出す過程で生じる苦悩や孤独、その先にある小さな希望を丁寧に表現しており、創作に携わる人々にとって共感を呼ぶポイントとなっています。
5:アニメーション:★★★★★
スタジオドリアンの手によって、原作の世界観が美しいアニメーションとして再現されています。特に、創作に打ち込む二人の少女の姿や、それぞれの心の葛藤が視覚的に表現されているシーンは見所です。
6:アプローチ:★★★★☆
本作は、藤本タツキの原作が持つ漫画的な表現を映画ならではの手法で新たに解釈しています。特にセリフを抑え、視覚や音によって物語を語る手法を取ることで、作品と対話する時間が生まれ、深い感動を呼び起こしています。
⚠️以下は詳細な感想になります。
ストーリー
藤本タツキの同名原作をベースに、創作を通じて繋がった二人の少女、藤野と京本の関係が描かれます。物語は、二人が「描くこと」を通じて成長し、友情や葛藤、そして別れに向き合う過程を中心に展開されます。単純な「友情」や「努力」だけでは語りきれない、創作の喜びと痛み、喪失感が本作のテーマに深く刻まれています。監督の押山清高は、藤本の物語に対する深い理解を背景に、原作の持つレクイエムとしての側面や創作への問いかけをさらに掘り下げています。
演出
押山清高監督による演出は、原作を尊重しつつも独自の視点を加え、映画ならではの体験を提供しています。セリフや説明を極力省き、視覚や音の演出によって人物の心情や物語の奥行きを伝えています。特に藤野と京本の対比が丁寧に描かれ、彼女たちの心の変化を繊細に感じ取れる演出がなされています。また、象徴的なシーンがいくつか含まれており、観客に考えさせるような仕掛けも随所に見られます。
音楽
音楽を担当したのはharuka nakamuraで、彼の楽曲は作品に深い祈りの要素を加えています。彼の音楽は、静けさと暖かみがあり、作品のレクイエムとしての性質を強調。彼のサウンドスケープは、映画の情感を高め、観客に余韻を残す役割を果たしています。特に、主題歌「Light song」も、物語の哀愁や登場人物たちの内面的な葛藤を表現するのに重要な役割を果たしています。
キャラクター造形
主人公の藤野と京本は、創作を通じて互いに成長し合う、繊細でリアリティのあるキャラクターとして描かれています。藤野は才能と努力で周囲から称賛されるものの、内心では京本の登場により葛藤や嫉妬を抱きます。一方の京本もまた、藤野との関係を通じて自分を見つけることができるキャラクターで、どちらも複雑で現実的な感情を抱えているため、観客に共感を呼びます。彼女たちの友情や対立、そしてそれを超えた絆が、作品の大きな見所となっています。
映像美とアニメーション
スタジオドリアンによるアニメーションは、藤本タツキの繊細な画風を忠実に再現しつつ、映画ならではのビジュアルで魅力的に表現されています。特に、描くシーンや静寂のシーン、キャラクターの細やかな表情は見応えがあります。背景美術や色彩も丁寧に作り込まれ、登場人物の内面やシーンの雰囲気が視覚的に強調されています。美しい映像が物語の深みを引き立て、没入感を高めています。
テーマ性とメッセージ性
本作は、創作とは何か、なぜ人は描くのかという普遍的な問いをテーマにしています。物語表面上の青春ストーリーに留まらず、京アニ事件のような現実の痛ましい出来事へのレクイエムとしての意味も込められています。作中で表現や創作がもたらす影響が肯定的にも否定的にも描かれており、創作活動がどのように人に影響を与えるのかという問いが投げかけられています。また、「なんで描いてるの?」という問いに対するキャラクターたちの姿が、観客に深い感動を与えます。
オリジナリティ
藤本タツキの作品を原作としつつも、映画としてのオリジナル性を強く持っています。原作が持つ静謐でパーソナルなテーマを、押山清高監督が独自の視点で昇華し、映像と音楽で新しい物語体験を作り上げました。また、haruka nakamuraの音楽、映像の美しさ、キャラクターたちの丁寧な描写が相まって、原作ファンだけでなく幅広い観客にとっても感動的な作品に仕上がっています。