一八

エイリアン:ロムルスの一八のレビュー・感想・評価

エイリアン:ロムルス(2024年製作の映画)
4.9
【宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない】

古来から、ホラー映画に登場するクリーチャーには様々なメタファーが込められてきた。
『エイリアン』シリーズにおける怖さとは、未知の地球外生命体の存在よりも、自分だけは助かりたい一心で保身に走る人間や、果てしない利益を追い求める企業といった、死が迫りつつある中において永遠の命を求める欲求とその代償、そしてその中に潜む人の傲慢の表れにこそある。

SFホラーの重鎮『エイリアン』シリーズの最新作。
時系列は初代『エイリアン』と『エイリアン2』の間、劣悪な植民星から脱出しようと廃棄された宇宙ステーションに迷い込んだ若者達が、その施設で冷凍されていた未知の凶悪生命体を目覚めさせてしまうストーリー。

正直に言うと、この映画の情報が公開された時、僕は本作に全く期待できなかった。
というのも、ジェームズキャメロンが製作した映画の続編は、誰が何を試してもB級映画化したジェームズキャメロンのコピーになる。
そして、新しい世界線を切り開こうとしたリドリースコットによる『プロメテウス』サーガも、SFホラーとはかけ離れた黙示的な神話を基とする『ブレードランナー』を彷彿させる内容で、続編を作れば作るほど本来のスタイルが見失われていったからだ。

ところが、映画館で本編を実際に見た時、僕はOPの時点で度肝を抜かされた。
生命を許さない無音と孤独の宇宙、今にも壊れそうなコンソールの起動音、何かしらの陰謀を感じさせる人物の動き、『エイリアン』シリーズの恐怖の原点である、息も凍る閉鎖的な空間を完璧なまでに再現している。
フェイスハガーが解凍されてからの絶望感も随一。
ハプニングに次ぐハプニング、いつ失敗してもおかしくない無計画な作戦の連続で、物語の舞台となる宇宙ステーションの崩壊具合と相まって極限の綱渡り状態が絶えず続いていく。

方向性が定まらないせいで崩壊寸前にまで陥ったシリーズの最新作が、これほどに純粋なホラーとして回帰できたワケ、それは、これが『悪魔のいけにえ』から続く、何も知らない若者達が予想外の悲惨な目に遭うショッキングムービーであるからに他ならない。
この物語の登場人物は、ジェームズキャメロンのような強い母親のアイコンでなければ、リドリースコットのような生を求める王のアイコンでもない、サムライミの教え子フェデアルバレスが得意とする、ごく普通の少年少女達である。
正しい行動をとるのが難しく、パニックに陥り状況を更に悪化させるなんてこともしばしばだ。
本作は、そういった未熟な面を抱えた小さき者達の視点で物事を描くことにより、彼らが味わう恐怖、そしてそれに立ち向かう勇気を等身大で映し出したのである。
今から40年前、初代『エイリアン』が企画され始めた頃、脚本を担当したダンオバノンは、リドリースコットに対して「『悪魔のいけにえ』のように、宇宙を舞台にした、恐怖に支配された映画を作りたい」と語ったそうだ。

思い返してみると、これまでの『エイリアン』シリーズは全て実験だった。
SFホラーを確立させるための実験、宇宙戦争ものに路線変更する実験、人とクリーチャーの融合体を産み出す実験、未知の生命体同士を激突させる実験、神話になぞらえて生と死の起源に迫る実験。
そして、その全ての実験の成果が、この『ロムルス』のクライマックス、"あれ"が姿を現した瞬間にかかる無音の演出の中にある。

大傑作すぎて言葉が出ない。
これは『エイリアン』シリーズという名の実験の成果であり、SFホラーの最高傑作だ。
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