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めまいのbutasuのレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
4.0
凄い映画だった。登場人物全員の精神的危うさと、グイグイ引っ張る怒涛の展開。そして唐突に訪れる言い知れぬ余韻を残すラスト。大傑作。

トラウマを抱え高所恐怖症となった主人公と、過去の亡霊に囚われる謎めいた人妻。このキャラクター造形だけで十分危ういのだが、本作ではさらに計算され尽くされたカメラワークや音楽の使い方などにより、全編に渡り独特の雰囲気を出すことに成功している。有名な「めまいショット」はやはり今見ても圧巻。ヒロイン登場シーンも然り、当時の技術ながら抜群のアイディアだけで多彩な演出が繰り広げられる傑作映画と言える。

物語自体もすごい。予想もつかせないスピーディーな展開と、過去の亡霊や死んだ人妻に生き写しの女など幻想的なモチーフの上手い使い方。主人公の精神的不安定さにハラハラしながら観てしまうが、実はミステリーとしてもしっかりとした作りになっている。

健気に主人公に想いを寄せるメガネっ娘がとても切なくて良かった。この映画唯一の清涼剤。あの娘がいることで物語と主人公がギリギリ地に足をつけていたのだが、終盤彼女が顔を見せなくなると途端に物語と主人公の精神的なバランスが崩れていく。

惜しむらくはキム・ノヴァクの化粧が濃すぎて彼女の魅力を損なっていたこと。特に後半。時代のせいだから仕方がないのかも知れないが、太くて山なりの眉毛が何とも残念。体つきのゴツさと相まって、強そうにしか見えなかった。

最初はヒロインが精神的な病を抱えている様子だったのに、徐々に主人公が蝕まれていき、一見回復したかと思えば完全な狂人へとシフトチェンジしていく。終盤の方の主人公の目つきはひたすらに怖い。圧倒的にヤバい人。幻想に囚われ続けた彼と、悪に加担した彼女は、当然幸せになどなれないのである。
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