8年前に結婚退職して、主婦となった江口のりこ。
しかし子供には恵まれず、夫の小泉孝太郎は若い娘と絶賛浮気中で、家の母屋に住む姑の風吹ジュンとの関係も微妙。
そんな時、近所で不審火が相次ぎ、かわいがって餌をやっている野良猫のぴーちゃんが姿を消す。
そしてこの日を境にして、主人公の世界は少しづつ壊れてゆく。
夫には離婚を切り出され、浮気相手の妊娠が発覚。
唯一社会と繋がる場だった、講師を務める手作り石鹸教室も終了。
今まで不安定ながら、懸命に維持してきた日常は、砂上の楼閣の様にあっけなく崩れ去る。
そしてこのことが、ある意味レイヤー構造の世界の、因果応報の結果であることが浮かび上がってくる。
主人公は、浮気相手のものと思しきSNSをしょっちゅう見ているが、この本当の意味が見えてきた時、観客はどこへも持って行きようのない、主人公の葛藤の正体を知る。
不審火の炎や、最後まで姿を見せないぴーちゃんは、一体何のメタファーなのか。
現実世界で、メタ的な自分残酷物語を見る羽目になった主人公は、チェンソー片手に自らの過去を掘り返すしかない。
閉塞したスタンダードの画面で展開する、人間たちの不条理な心理劇。
なるほど「愛が乱暴」じゃなくて「愛に乱暴」な訳は、最後までくるとしっくりくる。