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化け猫あんずちゃんのrinのネタバレレビュー・内容・結末

化け猫あんずちゃん(2024年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

経済活動から逃れられないこの世という生き地獄で、誰のそばで生きていくのか──気になってたけど観られてなかった新作をトリウッドで回収してきた。『まんが日本昔ばなし』みたいな顔しながら残酷なほど現実的な作品だった。母を亡くしたかりんちゃんは、借金まみれの父さんとともに片田舎の寺を訪れる。その寺の和尚は父方の父で、その寺にはあんずちゃんという成人サイズの猫がいた。金を無心するが断られる父さん。ここでちょっと待ってろと言ってどこかに行こうとする父さんに、かりんちゃんは父さんが東京に向かうことを察して「お金、無いんでしょ」とお札を1枚渡す。父さんはその後なかなか戻らない。

前半は寺に取り残されたかりんちゃんが、和尚からかりんちゃんの世話係に任命された化け猫あんずちゃんや村の少年たちとつまらなそうにふれあっていく様子が描かれる。ここでは、お金を稼ぐ/お金を払うことにかんする描写が異様に多く登場する。借金まみれの父さんが坊主にお金を借りようとして断られ、かりんちゃんからお金を渡される冒頭から既に。坊主から外で遊んできたらどうと言われたかりんちゃんは、「わたしお金ないし」と返す(その後坊主からキッチリとへそくりをせしめるあたり、したたかである)。あんずちゃんがかえるちゃんやお地蔵さんなどのもののけたちと宴会を開いている時も、かりんちゃんは身の上話の決定打として「お金もないし」と言って一同の同情を誘う(効果をわかっているようなしたたかな表情が小憎らしい。実際にその後もののけたちはかりんちゃんのために働いたり宝くじを買ったりする)。あんずちゃんはマッサージをしてお金を稼いだり、かりんちゃんと一緒にカワウを追い払うバイトをしたりする。ヒトじゃないキャラ含めて、ほぼ全ての登場人物が経済活動に組み込まれている。年齢よりも早く大人にならなくてはいけなかったかりんちゃんの冷笑的な目線も合わさって、この前半はのどかな田舎での交流なのにどこか冷めて乾いた質感もある。

後半は地獄にいるお母さんに会いに行く大冒険が展開され、お母さんと再び別れて帰ってくると寺には借金を返しきった父さんがいる。そして訪れるラストが凄い。父さんと一緒に一度は東京に帰る電車に乗りかけたかりんちゃんが電車を降り、「勉強も、ちゃんとするから」と言って、何かを悟って泣き出しそうな顔をする父さんを残して寺のほうに駆け戻っていく。劇中、父さんは多少能天気な話し方をしさえするけど、それほど悪人として描かれているわけではない。東京にも仲のいい友達はいたはずだから、人間関係だけが理由とも考えづらい。だから彼女があの決定を下した理由は2つで、ひとつは借金を返す過程で半殺しの目に遭った父さんと比較してあんずちゃんは化け猫だから“死なずにそばにいてくれる”ということ。もうひとつは、父さんが“経済的な能力が無さすぎる”からだと思う。だとすると結構エグい話になる。特に後者が。実際はあんずちゃんだってかりんちゃんのバイト代をパチンコで溶かす残念な猫なんだけど、父さんは東京への電車賃も十分に持ち合わせていなかった一方で、父さんを探して東京にいく時にあんずちゃんはかりんちゃんの分まで電車賃を払っている(厳密にはかりんちゃんは「貸して」と頼んでたけど、多分返せとは言わないだろう)。電車賃を払ってあげなきゃいけない男と電車賃を払って(あるいは立て替えて)くれる化け猫、どっちがより自分の親として適切か。前半にかりんちゃんが見せる狡賢い表情を見ると、彼女がそんな冷徹な判断を下したとしても不思議じゃない。

まとめると、経済活動から逃れられないこの世という地獄で誰のそばで生きるかを少女が選択するというシビアな長編アニメでした。予想に反してほっこりする映画なんかじゃ全くなかったけど、大好きな作品!

てか山下敦弘さん、今年だけで『カラオケ行こ!』『水深ゼロメートルから』『告白 コンフェッション』と監督作が3本も公開されててひとりの人間とは思えない。閻魔大王の声を宇野祥平が担当してるけど、あの人も映画館で観る全ての邦画に出てる気がしてひとりの人間とは思えないわ。
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