青二歳

真珠湾攻撃の青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

真珠湾攻撃(1943年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

1943年ジョンフォードによる国策映画。プロパガンダのお手本。秀逸。陸海軍共同後援。日本人である以上、反ユダヤプロパガンダと違って身に迫る辛いプロパガンダですが、自分が日本人であることを差し引いても今作はプロパガンダの傑作だと思う。やはりプロパガンダはアメリカが一枚上手。
一方この頃日本では敵の出てこない国策映画を作っていた…敵愾心を煽らないその理性は評価されるべきだが、戦争中なんだからアメリカの国策映画みたいに敵国をもっと悪し様に描きゃあいいものを…いや先人たちの理性を尊敬しますし誇りに思いますけども。

構成として、先ずハワイの歴史が語られるんですが、そこをサックリとアメリカ国土のハワイとして描きます(沖縄とハワイの違いはなんなんだろう…これ沖縄でこんな描き方したらボロクソに叩かれるでしょうね)。そしてハワイは移民国家アメリカの象徴であるように紹介されていく。
特にハワイの発展に貢献した者として挙げられる日系移民。アメリカに順応する点を評価されています。
「様々な国や言語の人が暮らし、親しい隣人として友好を築いている」
そこでハワイアン美女がいう「様々な民族が暮らし溶け合っています。ハワイ諸島の総人口は42万3000人です。」朝鮮人曰く「そのうち7000人は朝鮮系」ラテン美女曰く「ポルトガル系は8000人」中国人曰く「中国系は2万9000人」「フィリピン系は5万3000人」さらにポリネシアンな美女曰く「先住ハワイ人系は6万6000人」白人曰く「白人(コーカサイド)は10万3000人」そしてオオトリ日系人から「日系人は15万7000人」「まさに人類のるつぼ。文字通り渾然一体だ。」
前半はアメリカという国の多様性や異文化共生こそが、国としての弾力性であるとばかりに移民国家アメリカの建前が語られます。

しかし印象的な台詞からどんどん不穏になってゆく。「“戦争屋”かい?やはり君は変わってるな、平和はたやすく得られない。物事は思い通りには進まない。そこでなにか提案すれば戦争屋呼ばわり。」「いつか東洋の愚か者の誰かが君を狙うだろう。そして準備が整えばこちらに構わず仕掛けてくるだろう。我が軍の要塞を叩くだろう。君が寝ている間に。」
この辺りから日系移民がいかにアメリカにとって異質な存在かが滔々と語られます。結局彼らはよそ者で、帰属するのは大日本帝國だと。キリスト教に改宗することなく国家神道を信奉していると。…ツッコミどころ満載…まず神道と国家神道が違うことを理解していないことはどーかと思う…(けど戦後でも皇室ギライな人は区別ついてないのでアメリカどうこうではない…)
それはともかく、日系移民はアメリカに忠誠を誓う"アメリカ人"ではない、日本に忠誠を誓うスパイである、情報を日本に漏らしているのだと訴えてゆく。
美容師や理容師、タクシードライバーなど身近な日系移民労働者がアメリカ人の世間話に耳をそばだて、情報を日本に漏らしているぞというストーリーなんですが、この辺がプロパガンダとして上手いなと。実際真珠湾攻撃があったので、ユダヤ陰謀論と違い、トンデモ陰謀論じゃねーかと片付けられない。身近であるからこそ不安感をうまく煽る作りです。ユダヤ人と違って“人種”が違うから、一目ですぐ分かる他者ですもんね…。来栖大使の裏切り云々とかオイオイと思うけども。
そして後半のクドい真珠湾攻撃の再現映像。アメリカ社会の葛藤を代弁した上で、観客の心情をうまく敵味方の二項に分けていく。プロパガンダは敵愾心を煽るだけでは多分駄作で、味方同胞への共感をしっかり掴まなければならないと思いますが、その辺がとても上手いんですよね。
真珠湾後のアメリカのタフさ自慢は「よく言うよウソつけ」ってツッコミたい所もありましたが、そこはスルーするとして、復興のシーン。ここも同胞への共感を見事に掴むんじゃないかと思います。まぁその復興の片付けや土木作業、避難訓練のシーンにアメリカ人と共に働く日系移民がバッチリ映っていることは気付かないフリしてあげるとして…


もっとも感心する点は二点。役者として出てくる日系人がことごとく片言の日本語。下手したら他の東アジア人なんじゃないかと疑わしいくらい不自由な日本語の棒読み(本編でも紹介されているけど当時のハワイに中国系と朝鮮系が一定数いた)。観客のアメリカ人にとっては日本語なんて分からないから棒読みでも構わないだろうが、日本人からみるとどこの言葉だと突っ込まざるを得ません。これはすごいことで、日系二世はほとんど日本語喋れないんですね。日系一世はとにかくお金を貯めて教育費にかけていた事が知られています。劇中では日本人学校も登場しますが、大多数の日系二世は現地の学校に通っています。日系二世が欧州戦線から家族に宛てた手紙は親が読めるように日本語(主にカタカナ)ですが、滅多に書かないからすごい下手な日本語の文章なんですよね。彼らは日本人として固まることなく、現地の言葉を使い、現地の教育水準になじむ努力をしていた事が伺えます。戦後に撮影された二世部隊ドキュメンタリーでも、日本語を話せない人が多数いました。
劇中でも「彼らは伝統を持ち込んだが、それをアメリカ流に順応させた」と、「順応」という言葉が出てきましたが、ナチスの反ユダヤ映画ではユダヤ人はいつまでも“滞在国”に溶け込まない同化しない民族だと言われていたのと対照的です。とはいえ反ユダヤ映画と同じように「やはり日系移民はアメリカ人ではない、信用できない、神道を信仰してキリスト教に改宗しない」という描かれ方をするのですが、それらの映像は日本人からみると却って、日系移民がどれだけ現地に馴染もうと努力していたかが伺い知れます。

もうひとつは真珠湾攻撃の再現PV。まさにプロモーションビデオ以外の何物でもないこの再現シーン。戦中のど真ん中でこんな再現できるなんて…なんて余裕なんだ…と感心することしきり。金もモノも余りある事がよく分かります。方や日本では機密扱いで情報提供ほぼゼロの中、円谷英二が素材不足に苦労しながらせっせこミニチュアを作り、真珠湾の再現特撮を撮っていました。しかも戦後GHQがその特撮を見て日本側の真珠湾記録フィルムを見つけたぞと騒ぎ立てるオチまでつく。

日系移民については“二世部隊”('51)もよい作品ですが、真珠湾の描かれ方がまるで違いますね。“二世部隊”では真珠湾で死んだ日系人や、その後殺された日系人の苦しみにも言及しています。アメリカ史上最多の勲章を受けた二世部隊をハリウッドが悪し様に描けるわけがない。
ジョン・フォードの真珠湾攻撃はお気に入りのプロパガンダで何度も観ているので(日系人な分見るのかつらいけど)、また見直して発見があれば修正加筆するやも。
青二歳

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