このレビューはネタバレを含みます
21世紀の監督ノア・バームバック。
そこには戦争も惨殺もない。
そして、誰も死なない。
舞台は1986年、豊潤な時代。
(ノアが17歳の時が舞台)
しかし、より複雑になった感情がある。
生き続けなければならない現実がある。
豊かだからこそ、何かを見つける必要がある。
そして、見つけなければ、折れてしまう。
それをなんとまあ、セリフと間と的確なショットで爆笑に包みながら見せていく。
この作品は、逞しくも脆い大人になりかけた(17歳の)少年の目を通して、自身の父母、その父性と母性を映し、男と女の性をも浮き上がらせる。
父と母も所詮、男と女。巨大なイカと巨大な鯨の様に絡み合い、噛み付き合い、離れることはない。巨大な母性を広げ、大海原を悠々と泳ぐ鯨の様な母は女の象徴であり、何本もの足を細々と動かし、細かい行動とこだわりのみに己の力を発揮する父は男の象徴である。そしてそれこそ、少年にとって最愛の親の姿なのである。
彼らを理解した時、ついに少年は涙した。
そして、巨大なるイカと鯨の元へ走るのだった。
驚くべき繊細さで、私たちの映画が目の前に拡がり、苦笑と爆笑の果てに、ついに涙してしまう自分がいた。
追記
父のゴリ押しにより『ブルーベルベット』(86)を観させられて、全く理解していないであろうソバカス彼女の表情が必見。やはり予定通り『ショート・サーキット』(86)が観たかったんだろう・・・
お子様にはリンチよりジョン・バダム。