圧巻。
李相日のキャリアベストだ。
極道だった親を抗争で殺され、歌舞伎の大物俳優の渡辺謙に引き取られた、吉沢亮の激動の半世紀を描く一代記。
彼の終生のライバルとなるのが、渡辺謙の息子の横浜流星。
対照的な出生の二人は、まるで合わせ鏡のような人生を歩んでゆく。
切磋琢磨する少年時代が終わると、まずは「才能」が横浜流星に襲い掛かる。
ここから「アマデウス」の、モーツァルトとサリエリの様な関係になるのかと思ったが、さにあらず。
今度は吉沢亮が、自分には無い「血筋」によって苦しめられる。
二人の人生は、まるで見えざる力に動かされたシーソーの様に、乱高下しながら進んでゆく。
まあ矢継ぎ早に色んなことが起こり過ぎの様にも思うが、50年を3時間弱にギュッと圧縮しているので、これは致し方あるまい。
物語も映像も密度が圧倒的に高く、いわば旨味たっぷりに濃縮された、極上の伊勢海老ビスクをいただいている感覚だ。
しかも上品で、胃にもたれないんだな。
歌舞伎の悪魔に魂を売った主人公の人生を、人も時代もどんどんと過ぎ去ってゆく。
ライバルとなる二人の宿命を表す演目として「二人道明寺」、たどり着いた孤高を「鷺娘」に象徴させているが、ライブアートである歌舞伎の凄みを表現するのに、クロスカッティングやクローズアップなど実に映画的な手法を駆使しているのが面白いところ。
青白く燃える情念の炎の様な作品で、大河ドラマ一年分を一気に観た様な充実感。
出てくる演目は、内容を知っていればより深く楽しめるが、別に知らなくても全く無問題。
間違いなく、今年の映画シーンを代表する作品の一つになるだろう。
ブログ記事:国宝・・・・・評価額1800円
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