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幕末太陽傳のslowのレビュー・感想・評価

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.8
古典落語をベースに織り交ぜた日本映画史に残る喜劇にして、川島雄三の最高傑作としても名高い本作。山中貞雄の『丹下左膳〜』も素晴らしい作品だったけれど、これまた凄い映画に出会ってしまった。

あらすじの良さは言うまでもないけれど、登場人物の魅力が最高。
どんな状況、相手だろうと意に介さないフランキー堺演じる佐平次の人間力。飄々とした立ち振る舞いと機転を利かせた口車で、厄介ごとを落としまくる様は愉快爽快でまさに落語。その指先から髭先にまで神経が通っているのではないかと思わせる動きはカートゥーンアニメの動きのようでもあり、フランキー堺という役者の技量と存在感には大天晴れとしか言いようがない。もう現代ならモーションキャプチャーの仕事も舞い込みまくるよフランキー。
左幸子、南田洋子という豪華な女優陣の女郎ぷりと戦いも見所で、『吉原炎上』とはまた違った贅沢さを味わえる。巨大なセットを裾振乱しながら縦横無尽に駆け回る2人と、仲裁を試みる人々。画面から伝わるエネルギーのなんと豊かなことか。その様子をお天道様の気分で見下ろすカメラワークに、監督のニヤリとする顔が浮かぶ。

この作品の生は、死を漂わせ意識させることで何倍にも明るく美しいものに感じられる。しかし、その死すらも恐怖や物悲しさで描くのではなく、笑い飛ばしてやろうという態度でことごとくコメディに昇華させているところが抜群に巧い。それは病との戦いを続けた監督自身の死生観が、少なからず反映されたものだったのかもしれない。ラストシーンにおける逸話も鳥肌もの。先見の明と言うか、監督には一つ先の時代が見えていたのだろう。
落語好きの人にはもちろん、単純に元気を貰いたい人にも是非オススメしたい国宝級の一本。