青の時代へと至る道程。
原作ファンとして、公開2日目に観に行かせて頂きました!
本作の概要は、人生に実感をもてていなかった高校生、矢口八虎(眞栄田郷敦)がとあるきっかけで美術に興味をもち、東京藝術大学合格を目指す物語です。
原作を至高とする派閥からの意見としては、原作の忠実な再現をしつつも、飲み込みやすいかたちで作品の再構築ができていて、良質な実写映画の1本と数えても問題ない1作だったと思います。
ファーストシーンからその後の物語を想起させるようなイメージが重ねられているように感じ、期待感を大きくさせるものになっていました。
劇伴に関しては、要所要所で過剰かなとは思いつつも、作劇にマッチした楽曲になっていたと思います。
ただ新海誠的な劇伴使いは食傷気味だったため、少々気落ちする部分ではありました。
脚本面に関しては、アニメに引き続き吉田玲子の手腕が光る素晴らしい内容となっていました。
原作からの取捨選択を行う上で、八虎の苦悩や挫折、成長に焦点を当てていたのが印象的で、1本の映画作品としてとても観やすかったです。
八虎の心象風景を、美麗なCGを使って表現する演出も迫力満点で、漫画版からあった早朝の渋谷を飛び回るイメージシーン、自らの「縁」の解釈を考えるシーン、実際に「縁」の絵を描くシーンと、どれも目を見張るクオリティでした。
他にも、母親に藝大を受験したいと伝えるシーン等、原作から描き方を変えたシーンが幾つもあり、それらがかなりの割合で映画的な演出をするにあたって、良い改変になっていました。(漫画で大ゴマを使う等して描かれていた名台詞がさらっと流されていたり、省略されていたりするのは、個人的にモヤモヤするポイントでした。ただこの辺りは原作を知っているからこその意見であり、映画単体での評価で言うと、あまり反映されない部分ではあります)
とはいえ、サブキャラクターに関してはほぼ背景が描かれることがなく、どんなことを考えていて何がしたいのかが、映画内では何もわかりませんでした。
原作を読んでいる身からすると残念に感じましたし、ドラマ上ノイズがなければよかったものの、いきなりサブキャラクターとファーストフード店に行っている描写が挟まれたり、予備校で逃げ出したキャラクターが次の場面では平然と授業に参加している場面があったり等、関係を深めた上での展開や原作に準拠した展開が残されていたため、違和感が目立ってしまっていたように感じました。(サブキャラクターの描き方に関しては、高橋世田介(板垣李光人)と八虎が距離を縮める過程についても言えるかと思います。後半(特に受験本番)になり、急激に近付いたような気がします。原作ではもう少しスムーズに距離が近付いていった気がするので、この辺りは115分で収めなければならなかった弊害だったと思います)
また、鮎川龍二(高橋文哉)の登場シーンの漫画的な描写をそのまま再現してしまっていて、他のシーンが映画的な解釈で表現されているだけに浮いてしまっていました。
漫画からの設定が足を引っ張っている部分で言えば、受験前に腕に蕁麻疹ができていて……といった設定も、悪い意味での考えるフックでしかなく、それ以上の効果があったようには思えませんでした。
効果的な回収がなされない原作要素は、排除すべきだったように感じます。
総じて、ところどころにノイズが生じている部分はあれど、原作の良さを、矢口八虎という1本軸を設けることでより見やすく、マスに届けられる、実写映画の良作に仕上げられていました!