Jun潤

傲慢と善良のJun潤のレビュー・感想・評価

傲慢と善良(2024年製作の映画)
3.7
2024.10.03

辻村深月原作。
監督はつい先日公開された『ブルーピリオド』の萩原健太郎、脚本はテレビドラマで奥寺佐渡子と頻繁にタッグを組む清水友佳子。
今のところ映画の方ではハズレなしの辻村深月原作、今作は果たして。

アプリで婚活に勤しむ西澤架。
なかなか理想の相手とは出会えず、出会う女性も自分が亡き父から小さなビール会社を継いだことや名刺の肩書き、身につけた時計などを見てばかり。
そんなルーティンの繰り返しの中で出会った、坂庭真実。
それまでに出会った女性たちと違い、純朴で善良な姿に惹かれ、架は真実と交際を始める。
それから一年、順調に関係を深める二人だったが、真実がストーカー被害の悩みを打ち明けたことで、二人は同棲を開始、婚約も決まった。
しかし、真実が職場の送別会で帰りが遅くなった次の日、真実は架の前から姿を消す。
架は、過去から現在にかけて真実の身に起きたことと共に、男女の間にある『傲慢と善良』を目の当たりにしていくー。

これは原作を読みたくなったというか、わざわざ映画にしなくてもと思ってしまいました。
本も好きですが映画の方が好きな身からするとそこは映画内で完結した気にさせてくれよといった感じで、そこがちょっと不満点。
『ハケンアニメ!』も原作既読ながら映画の出来に感激したことや、『朝が来る』も『かがみの孤城』も監督が強すぎたことを考えると、辻村深月先生が創り出す世界観やキャラクターに追いつける製作サイドの人材が揃っていないんじゃないかと思いますね。

映画として観ると少々物足りないところはありますが、中身についてはさすが辻村深月御大、男女共に的確に痛いところを突っついてくる内容でした。
まず描写自体は架一人に集約されていたものの、いくつになっても結婚はできると鷹を括ってなかなか婚約に踏み切れなかったり、元カノのことを忘れられずに引き摺っていたりと、女性作家なのに男のことをよくわかっていらっしゃる。
あざとかろうと必死に頑張っていようといい女性はいい女性でいいだろうよ。
女性の方については男なものでこれまでの経験がベースになってしまうものの、作中での描写はだいぶリアルだったのではないでしょうか。
最初に出てきた架とマッチングした女性陣が彼を品定めしているような描写や、美奈子ら架の友人の女性陣が架を前にして真美をこき下ろす様子、当人から話を聞くよりも周囲から聞いた話で婚約者の心情を決めつけにかかるところなんかは、イライラしたりあるあると共感したり、ある意味今作の正しい鑑賞方法ができたように思います。

そして今作で描かれる『傲慢と善良』。
作中で明言されたのは真美が併せ持っていた、母親からの期待や心配に応えなければという善良さと、それでも自分に見合う相手を品定めする傲慢さ。
それは架にも共通していて、真美のことを純朴で善良だと信じ続けたり姿を消した真美のことを心配し続けたりする善良さを持っていながら、なかなかすぐに婚約を決めきれない、決めきれなくても待ってくれるだろうという傲慢さを、彼も併せ持っていたのだと感じました。
しかし両方を併せ持っていたのは作中だとこの二人のみで、他の登場人物たちはどちらか一方だったのではないかと思います。
架の男友達は架の結婚を心配して真美のことも素直に褒める善良さを、そして美奈子らは仕事も結婚も勝ち組になると思われていた架の心を射止めた真美のことを酷評したり余計なことを吹き込んだりと傲慢っぷり全開。
そして宮崎美子の怪演ありきかもしれませんが一番傲慢だったのは真美の母だったのでは。
自分が得た幸せと同じように、結婚が遅れた姉と同じ轍を踏まぬようにと、真美を束縛し感情に蓋をさせ、挙げ句の果てに架が目の前にいるのに彼を批判するという、傲慢を通り越して人間性を疑わせるところまで至っていたと思います。

映像的には上述の通り辻村深月先生の良さを引き出すようなものも、画的に印象に残る場面も無くといった感じ。
強いて挙げるなら真美が嘘をつく際に架からのプレゼントだけでなく母からのプレゼントも一緒に隠したのを描いていたことと、上でも言った宮崎美子の演技、そしてもう少し欲しかったけど見事な当て馬っぷりを見せてくれた倉悠貴ぐらいですかね。
Jun潤

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