CHEBUNBUN

私たちが光と想うすべてのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

私たちが光と想うすべて(2024年製作の映画)
4.5
【イメージの外側にあるインドの音を巡って】
動画版▽
https://www.youtube.com/watch?v=MvShJ_l17AI

第77回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞したインド映画"All We Imagine as Light"が邦題『私たちが光と想うすべて』で2025年7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて公開となる。

『私たちが光と想うすべて』がカンヌ国際映画祭コンペティションで賞を獲ることはインド映画界にとって大事件であった。実は、カンヌ国際映画祭とインド映画の相性は非常に悪く、ある視点部門まではいけるものの、コンペティションにインド映画が選出されることはほとんどなく、30年以上前の1994年にシャジ・N・カルン『私自身のもの』が選出された以来のコンペ入りとなっている。

パヤル・カパーリヤー監督作は山形国際ドキュメンタリー映画祭2023に出品された『何も知らない夜』で知っていたのだが、そこからパワーアップした表現力に圧倒された。

本作は3人の女性を中心とした内容となっている。2人の看護師と食堂に勤めるパルヴァディを中心に物語が紡がれ序盤は是枝裕和に近いタッチ、後半はツァイ・ミンリャン『河』に近いマジック・リアリズムで描かれている。

まず、驚かされたのは「音」の扱いである。インドと言えば騒がしい音のイメージがある。実際に2024年にインド旅行したのだが、終始騒々しい混沌とした場所であった。しかし、映画はやけに静謐な静けさをもっているのである。エドワード・ヤン『カップルズ』のように人はいるけど音は小さいといった感じだ。やがてムンバイの祭りのシーンになるのだが、祭りとは思えぬ静けさの中で独白が挿入される。

「夢の地といわれるが幻想である」

我々のイメージの外側に追いやられてしまっている女性たちが、この世界の片隅で、夢の世界に入れない様に幻滅しそうになるも踏みとどまって言葉や感覚の手綱を握り続ける大切さが吐露されるのである。そんな女性たちは詩、ドイツから届く炊飯器、肉体といった要素と対話し、心の中に安息の地を見出そうとする。

なんて美しい世界なんだと衝撃を受けたのであった。

2025年7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて公開。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN