ふふみ

シャイニングのふふみのレビュー・感想・評価

シャイニング(1980年製作の映画)
4.2
久しぶりにもう一つのシャイニングと見比べ。
こうして改めて観るとスティーブン・キングが酷評した理由は分かる。とにかく人物描写が冷たいんだな。
ジャック・ニコルソンが演じるジャック・トランスは登場から傲慢なアル中臭がプンプン漂っていて、妻子への愛情が端っから感じられない。
シェリー・デュヴァル演じるウェンディからは妻や母親としての誇りが感じられず常に弱々しい。
メイキングからの印象だと、本当に役者としてのジャック・ニコルソンにビビり過ぎていた可能性もある。
息子も顔は可愛いのに可愛げがない。
正常な状態の家族の関係性も殆ど描かれていないから、この3人が家族だとは思えない描写。
もう一人の能力者であるディックの描写にだけは温かみが感じられる。

ここまで人物描写を批判しておいて何だけど、それでも私はキューブリックのシャイニングが好きだ。
ドラマ性を重んじたいキングの気持ちは理解できるし、そういう原作者の意図にはもう少し敬意を払った方が良いとは思う。
自分が生んだキャラクターを別人のように表現されたら確かに腹が立つだろうと思う。
だけど、この強烈で胸焼けしそうなまでの画の力を前にしてしまうと、そんなことを忘れてしまうのもまた事実。
寧ろドラマ性でのクールダウンなんて邪魔に感じたかもしれない。
もしもキューブリックがここにドラマ性を加えることは水を差す行為だと感じたのなら、それもまた映画の世界観を守るべき監督として正しい判断。
もう一つのシャイニングと比べて良し悪しじゃなくて、強弱で言うと圧倒的に強いから。
子供の頃から今でもこの引力と中毒性に抗えないから仕方ない。
「空っぽのキャデラック」でも欲しがる人は意外といるもの。
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