[ブラジル、暗殺を寝ブッチした男とパラダイス的モーテル] 70点
2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。カリム・アイノズ長編九作目。前作『Firebrand』が昨年のカンヌ映画祭コンペ部門に選出されていたので、二作品/二年連続選出となった。本作品は同じ地域を舞台にした未発表の『Trevo de Quatro Navalhas』『Lana Jaguaribe』へと続く三部作の第一篇とのこと。整備工として将来は自分のガレージを持つことを夢見る主人公ヘラルドは兄ジョルジェと共に、地元で有名な闇金業者で麻薬密売人"バンビーナ"から暗殺業務を請け負うが、実行日にバーで女を引っ掛けていたら寝過ごしてしまい、兄は死亡し任務にも失敗した。"バンビーナ"の追手から逃れるため、ヘラルドは寝過ごした際に泊まっていたモーテルに住み込みで働くことにする。元警察官のエリアスとその妻ダイヤナが経営するそのモーテルは、敷地は電気柵と大きな門で囲まれ、受付は必要最低限の窓枠のみ、部屋には従業員とやり取りする小窓が空いているという刑務所みたいな構造のくせに、やたらとヴィヴィッドな色彩に囲まれたパラダイス的地獄を体現するモーテルで、ヘラルドはダイヤナに心惹かれていく。サウンドデザインが素晴らしく、掃除をしていると他の部屋から喘ぎ声が廊下まで響き渡ってくるのだが、これがちゃんとした(?)セックスなのか人殺しでもしてんのか分からないくらい激しいもので、隠れているはずなのに有り得そうな未来を感じさせ真綿で首を絞めるような状況を作り上げている。そんな環境でもヘラルドはダイヤナへの燃え上がる感情は隠せず、暑く気怠げな情事が何度も行われる。モーテルに隠れたことで生や性が血肉を得て実体化していくような生々しさがあって非常に興味深い映画だった。印象的な場面で必ず登場する浜辺のシーンが良いなと思ったら、DPがエレーヌ・ルヴァールだった。