ShojiTaniguchi

セーヌ川の水面の下にのShojiTaniguchiのレビュー・感想・評価

セーヌ川の水面の下に(2024年製作の映画)
3.4
2024年夏季にパリで開催されるオリンピックのタイミングを完全に狙いすまして作られたであろう、フランス製作のパニックスリラー。
パリのセーヌ川に巨大なサメが侵入し、事態の解決をはかる主人公達と、それを妨害しようとする環境保護団体と、セーヌ川の水泳を含むトライアスロン大会の開催を強行しようとする人々の思惑が錯綜する。

サメが出てくるパニック/ホラー映画は、そのスタイルをどんどんと進化させながらも20世紀中にやり尽くされて飽きられたかと思いきや、段々とそのジャンルそのものがミーム化して、真面目なのかふざけているのかよく分からない作品が量産されるようになり、ニッチながらも確固たる独自のテリトリーを確立している。
が、この映画に関しては、少なくとも製作者達はそういった「皆さんも分かってますよね」的な昨今のサメ映画とはスタンスが違って見え、けっこう真面目な顔つきのトーンと丁寧な脚本の導入で物語へ引き込ませてくれる。
また、現実世界でも問題になっているセーヌ川の汚染とオリンピック競技強行実施の問題や、環境保護団体の理想主義過ぎる言い分を皮肉たっぷりで風刺していて、社会派映画といえばそうかも知れないが、もっと単純に、よくこんな意地悪な脚本を思いついたものだなと面白く感じた。

俳優達の好演や堅実で安定した撮影スタイルもあって、終始シリアスなトーンで物語が展開するが、いよいよサメが派手に人々を襲う! というタイミングで唐突にそれまでと全く違ったギャグなアングルになるところが数回あり、これは狙ってやっているのか? 真剣に恐怖すべきなのか? の判断がつかず、驚きながら半笑いになってしまった。

典型的なハリウッド映画であれば紆余曲折や大ピンチがありながら最後はハッピーエンドで締まりそうなところも、この作品はフランス製作ということもあってかそうはならず、悪い事態がさらに悪い事態を呼び、終盤はそこまで酷いことになっちゃうのと感じるところまでエスカレートしていく。
序盤からあからさまに張られていたある伏線が終盤の最高潮のシーンでしっかり回収されるのだけれど、その回収のテンションが全力過ぎて、悲劇的な画なのにかなり笑ってしまった。
フランス映画といえばその多くは不条理だったり難解だったり… という一般的なイメージがあると思うが、この映画の脚本や演出は、いわゆるフランス映画の典型には全く当てはまっておらず、かなり特異な作品といえるだろう。

最近のサメ映画は真面目なのかふざけているのかよく分からない作品が多いけれどこの作品はそうではなさそうだ、と中盤頃までは感じていたが、観賞し終えてみると、やはりこの作品もある意味で、脈々と続き進化し続けるサメ映画のDNAを (亜種的にではあるが) しっかり引き継いでいるのかも知れないと思い直した。
恐怖するべきか笑うべきなのか悩まされる作品だったが、楽しい映画体験だった。
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