監督主演・河合さんの俳優デビューのきっかけが山中監督の『あみこ』だったというエピソードを聞いた後、公開発表があり、2人のファンだったこともあり、期待をして鑑賞。
21才のカナは、二人の男(ハヤシとホンダ)の間を行き来しながら、自分中心の生活を送っている。
周囲の人間を見下し、日常のままならなさに辟易する彼女。
その閉塞感は次第に彼女の心を侵食していく。
果たして狂っているのは彼女なのだろうか、それとも、世界そのものなのだろうか……?
鑑賞時間の9割は「一体、何の話をしているのか?」が分からず、1割を掴みかけてきたところで終了。
そのため、肩透かしは喰らったが、監督作のファンとして"らしさ"が詰まった内容には納得した。
一方、これまでとは別次元に達した作品であり、自分では咀嚼しきれない範疇の物語でもあった。
これまでの監督作は「人生に不満を持つ主人公がささやかに爆発する」クライマックスが魅力的だったが、本作にそのカタルシスはない。
むしろ、『ナミビアの砂漠』はその"カタルシス"が認められず、社会に抑えつけられた主人公の物語であり、まるで幽霊のように現世を漂うカナの姿には、自分も心ここにあらずの状態になってしまった。
演出面では、音響設計の妙(冒頭、集中力が切れる場面の凄まじさから、じりじりと心がざわつく背景音にいたるまで)や、カナの脳内を具現化した映像、そして、なにより脇を固める女性陣の存在感が素晴らしかった。
唐田えりかさん(『寝ても覚めても』)、渋谷采郁さん(『ハッピーアワー』『悪は存在しない』)と、濱口竜介監督の熱心なフォロワーにしか抜擢できない2人が、まるで各作品からそのまま現れたかのように(そしてその人生を反映するように)魅力的に映し出されているのが感慨深かった。
正直、自分には刺さらない作品ではあったけれど、なによりも、山中監督が「自分のために」、そして、主演の河合優実さんを中心にした「監督を信じてくれた人々のために」作ったことを強く感じさせられた本作。
その思いだけで観る価値は十二分にある作品だった。
参考
前田司郎さんの件について|.
https://note.com/auk264/n/n587af031009f
(本作製作の約1年前に発表されたある告発文。劇中、カナに「お前みたいな男が作ったものが世の中に溢れちゃったら毒じゃん」みたいなセリフを吐かせた場面に「この事をなかったことにしない」という強い意思を感じた。)
俳優・河合優実と映画監督・山中瑶子が語り合う──『あみこ』が変えた、わたしたちの人生。 | CINEMAS+
https://cinema.ne.jp/article/detail/51837
(河合優実と『あみこ』の関係性。記事内でリンクされている本人が記した文章も必読。)
<イチオシ女優> 河合優実、3つの魅力!彼女は何者なのか?
https://cinema.ne.jp/article/detail/47696
(過去に執筆した記事。いちファンとして、ここから思わぬ所まで来てしまったなぁという感慨深さがある。)
山中瑶子インタビュー(『あみこ』):連載「新時代の映像作家たち」 – ecrit-o
https://ecrito.fever.jp/20180901221644
(終盤に、なぜ中国とのビデオ電話の場面が描かれたのか、その一端が分かるかもしれないインタビュー。当時の監督のシネフィル度合いが垣間見えるが、ここで挙げた諏訪敦彦・濱口竜介監督の影響がここにきて結実することになるとは……。)