映画大好きそーやさん

モーリの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

モーリ(2024年製作の映画)
3.7
証明できない嘘の重圧。
本作はモーリという少女に視点を寄せた、寓話的な語り口が良い味を出している作品です。
まず映像が雄弁で、圧倒的なリアルに基づくロケーションの壮大さ、荘厳さがあり、背景に映されている大自然を観るだけでも鑑賞して良かったと思わせるだけの魅力はあるかと思います。
そして、内容面に関しても、多くが語られないからこそ想像の余白が十分にあり、観客1人1人が真摯に向き合うことで、物語が出来上がる仕組みになっています。
果たして赴任してきた先生は本当にモーリの父親なのか、泥棒の正体は一体誰なのか、観る人によって解釈は大きく変わるのではないでしょうか?
私個人としては、嘘と他者が軸にあると思っており、嘘はその人の内にあるもので、その真意は人には分かり得ません。
それは他者であれば尚更のことで、だからこそモーリは受け入れられないのです。
モーリの喪失感は本物のように見えます。
ただそれはあくまで視点がモーリに寄っているから、私たちがモーリとして作品に入り込むから、成立している理解になるのです。
言葉というのは曖昧で、いくらでも偽装できてしまいます。
何をもって他者を信じればいいのか、それは親子どもの関係であっても変わりはありません。
血はつながっていようが、所詮は違う人間であり、根本的には他者なのです。
作中で、先生の正体や泥棒の真相が明かされることはなかったと記憶しています。
それもテーマ性を含めて考えれば当然です。
謎は多く、分からないことだらけである。だから、言葉を何度も何度も交わし、関わりをもち続けることで、何とか他者の一端を掴もうとする。それが共生していくことにつながる。そう語っているのではないかと、私は考えました。
絶対的な不満点はあまりなかったですが、ナレーション説明は相変わらずどうなんだろうと思いました。
総じて、嘘と他者といった重いテーマを扱いつつ、映像的な美しさが寓話的な語り口を強調する味のある作品でした!