2024.08.25
森田剛主演。
2023年にNHKにて放送されたドラマの劇場版。
ドラマの方は見ておらず、続編かと思っていましたがあらすじと尺の感じドラマ版をよりボリューミーにしたものだと思ったので今回鑑賞です。
第二次世界大戦下、日本放送協会(現NHK)のラジオが国民の主な情報源となっていた。
開戦までは天気予報やスポーツ中継が主な活躍の場だったアナウンサーたちも、次第に戦地の状況を伝え、国民の指揮を煽る役割へと舵を切っていく、そこに正しい情報が無かったとしても。
実在したアナウンサー・和田信賢は、自らの声で国を一つにしたいという夢と、「虫眼鏡で調べて、望遠鏡で喋る」という信念の間で揺れ動く。
しかしそんな和田も、彼の声を聞く国民のことも置いて、戦争は過激さを増していくー。
こういうの大河ドラマで扱って欲しいよなぁ。
戦時中、戦地ではなく自国で、銃や弾薬ではなく自身の声で戦争に関わった人々を描いた物語。
実在した人物たちの名前をそのまま使い、それぞれが何を考え、どのように生きていたのか、その声は何を伝えていて、実際には何が起きていたのかを描く、ドラマというよりもドキュメンタリーのような作品でした。
特に印象に残ったのは、戦地で何が起きているのかについて、国民も、国民に情報を伝えるアナウンサーたちも、本当のことは何も知らず、電波に乗って聞こえてくる情報を元に伝えるしかないということ。
本当のことを知らせるために戦地へ赴いたとしても、そこは戦争の最前線で、爆弾や銃弾が降り注ぎ、兵士の数や戦地の状況も偽情報などが飛び交い、本当のことを調べて忠実に伝える手段などないのではないかと思わせてくる緊迫感がありました。
情報を取得する手段も限られ、国が情報を統制していた時代と違い、現代では情報を取得する手段も豊富で、一般の人でも事実を調べる手段があるものの、状況はそんなに変わっていないんじゃないかというのが個人的に感じるところ。
放送・発信される情報は誰かにとって都合のいいように編集されたり、飛びつかれやすいように切り抜かれたりして氾濫し、ますます事実を知ることが困難になっているのではないか、そんなことを常々思います。
技術も発達して時代も変わったのだから、情報を鵜呑みにするのではなく、自分で調べたり信用に足る情報を取捨選択したりすることが一個人に対してより求められている時代になっているんだと、今作を通して改めて感じました。
作品としては、主演の森田剛をはじめ、語りも務めた橋本愛や高良健吾、浜野健太大東俊介水上恒司中島歩安田顕など、本当に戦時中を生きているかのような演技や、本当に当時のアナウンサーかのような、現代の方々とはまた違う話し方をしていたと思います。
個人的に、戦時中という描く必要があることが多い時代を描いているために、ドキュメンタリーにしても、日本軍のアジア侵攻やミッドウェー海戦、インパール作戦などの各出来事がダイジェストっぽくなっちゃうし、そっちを優先したら和田と実枝子などの人間ドラマの方が薄味になるというか飛び飛びになって深く掘りきれていないように思えてしまったのが少し残念でした。
水上くんが戦争の時代にいるとなるとあの「SNSで泣けると話題」が頭にちらつきますが、泣かせるための視点で描かなくても、当時の人々は好きで戦争の状況に一喜一憂していたのではなく、それこそラジオから流れてくる情報と、自分の頭上を飛ぶ爆撃機から今自分が置かれている状況を知るしかなく、国のためなら死ねるという人ばかりではなく、死にたくなかった人、死ぬとしても次の時代に想いを繋いだ人など、様々な人の感情があった、それだけで涙腺を刺激してきますね。
それらを全て封じ込めるほどの戦争という影が覆いかぶさっていた、今だからこそ考えられる話ですが、そんな異様な時代が本当にあったんだと思いました。