映画大好きそーやさん

君と空はの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

君と空は(2023年製作の映画)
3.4
自然と人工、人類はどちらを選び取るべきか。
本作は多くを語らない、余白を楽しむ内容でした。
概要としては、海辺の家に住む母親の元に、娘を連れた息子がやって来て、災害や海面上昇で今母親が住んでいる海辺は危険なため、息子が都市に引っ越すことを提案するといった流れになっています。
まず、特徴的なのはルックであり、どこか哀愁を感じさせる雰囲気作りがなされていました。(これは、母親が人工派の波に、微力でも(自然派として)立ち向かおうとしている気持ちを表した演出なのではないでしょうか?両者の摩擦は激しくなるばかりで、自然派は徐々に人工派の波に飲み込まれつつあるからこそ、淡くウェットな質感のルックに落ち着いたのだと考えました)
詩的なモノローグによって綴られていく物語には、自然と人工の対比関係が暗に示され、観客に君ならどうする?と問いかけてきているようでした。
場面場面では、それぞれの良い点悪い点が説明臭くなく提示され、どちらかが絶対と割り切れるような描き方はしていなかったと思います。
私は、特に最後の場面である、人工派の父親が連れてきた娘と、自然派の母親(娘にとっての祖母)が一緒に花火をするシーンが、作中で最もテーマ性に接近したシーンとして印象に残っています。
彼女たちが花火を楽しんでいる場所はとても綺麗であり、そんな風景の中、(人工的に作られた)闇に映える花火を楽しむという、自然と人工がどちらも美しいものとして画面に共存するシーンに、胸を打たれました。
結局、両者は間違っておらず、それ故に各人にその決断は委ねられます。価値観は人それぞれで、対立が起こってしまうのも必然なのです。観客はそのどちらの魅力も分かってしまうがために、何とも言えない感情が胸に湧き上がってしまいます。
所謂オープンクエスチョンで終わっていく本作の余韻は絶大で、鑑賞後もしばらく考え込んでしまいました。
画や展開は地味な印象が拭えず、またエンタメ的な帰着とも言えないため、ノれなかった方も多かったのではないかと勝手に想像していますが、如何だったでしょうか?
他にもモノローグの多用や、公式の説明文にある「遠い未来の物語。」に関しての描写不足等々、色々と問題点があったのは否めない作品ではありましたね。
総じて、静かながらも、この先ずっと議論されるであろう自然と人工という命題に対して、改めて思考を巡らせるきっかけをもらえた作品でした!