「薬」が照らした、人間という生き物。
本作はショートフィルムとは思えない満足度を誇っていて、1本の作品として素晴らしい出来でした。
あらすじとしては、バックパッカーの男女が、見知らぬ女性に赤ん坊を預けられ取り乱すという流れになっていましたが、その裏には無意識の差別や偏見、人間という生き物が抱える二面性、不完全性がよく表れており、他人事ではない人間描写にただただ心をかき乱されるような心地でした。
タイトルにもなっている「薬」というモチーフが、本作においては大事なように感じて、というのも「薬」は何らかの病気の症状を和らげたり、治したりするものであり、そこには状況の好転を示唆する意味も含まれていると考えました。
人間は確かに不完全で、達観していたり、成熟していたりするように見えても、その内側にはいつまでも未熟な部分が残っており、それは簡単に拭えるものではないのです。
それでも、生き続けることで変わっていくかもしれない。成長が見込めるかもしれない。そんな一抹の希望を人間に見出し、「薬」というモチーフに託して、作品に昇華させたのだと思います。
主役の男女の立場が逆転する心情的な対比と変貌、一貫した地元の女性の立場、私たちの偏見さえも引き出してくるリアリティの高い風俗描写等々、映像作品として頭一つ抜けた完成度を叩き出していました。
ラストカットにおける太陽の切り取り方も秀逸に感じ、映された太陽はもはや「神」が宿っているようにも思える神々しさを覚えました。
「神」によって見透かされた人間の底というオチは非常に痛烈で、尺の短さと併せて、鑑賞後何度も重ねて唸ってしまいました。
総じて、すべての要素が高水準にバランスよく映像となった、人間の不完全性を「薬」によって照らし出す救いのある良作でした!