「現実」のなんてことない狭間に潜む悲喜劇。
内容としては、主人公のトマトが、偉そうなトマトたちが審査するオーディションに参加するといったものとなっていましたが、前提となる発想が面白く、最後まで興味を持続させて観ることができました。
ベルトコンベアで運ばれている様は最初心理描写なのかなと考えていたのですが、どうやら違っていて、こここそに「現実」があったのだと理解しました。
と言うのも、これは農家さんが作物の良い悪いを判断するという工程をアニメーションとして切り取り、オーディションに見立てているといった発想の転換を行った根拠となる部分だったのです。
人間にとってのその行為は、作物を売る上で欠かせないことであり、ある種日常の一部な訳ですが、トマトからしてみればいきなり収穫された挙句、上位の存在によって審査されるという恐怖以外の何物でもない感情を想起させるイベントになるのです。
訳も分からずゴミ箱に捨てられていく仲間たちを見て、何者かになることを強要された主人公トマトは、自分の番になってブレイクダンスを披露し、見事合格を勝ち取ることに成功しました。
ただ、ここで終わらなかったことに、大きな意味、通底するテーマ性を読み解くことができます。
あるいは、合格がゴールではなく、スタートラインに立ったと言い換えることもできるでしょう。
設定されていたゴールの皮肉さ、シニカルな結末はコメディ的(喜劇的)でありながら、ずっと上位の存在に振り回され続け、それは生涯に渡って続くものであったと確定する瞬間(悲劇的)でもあり、冒頭にも示した悲喜劇に収れんしていくのです。
この哀愁たるや、人間社会の理不尽さにもつながってくるようにも思え、静かにその絶望の谷底へ突き落とされる主人公トマトに感情移入していました。
なぜトマトがトマトに審査されているのか等、細かな気になる点はありましたが、今回は全部は書く必要はないと判断したため書きません。(気になる点があったことだけ示しておきます)
総じて、まさかのトマトに泣かされる、「現実」を豊かに、残酷に切り取った作品でした!