Azuという名のブシェミ夫人

蜘蛛女のキスのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

蜘蛛女のキス(1985年製作の映画)
4.2
未成年との淫行の罪で捕まったゲイのモリーナ、反政府活動によって捕まったヴァレンティン。
映画の殆どは刑務所で同房となったこの二人の会話で成り立っている。

まるで虫系のホラー映画のようなタイトルだし、舞台もむさ苦しい刑務所だけれど、人と人がセクシュアリティや友情の枠を超えて心を通わせていく内面的美しさを持った物語です。
モリーナとヴァレンティンの関係はロマンチックと言っても良い程で、切なくて胸がギューーーってなる。
ウィリアム・ハートの演技が素晴らしくて、モリーナに心持って行かれ過ぎて泣けて仕方無い。
ううぅ・・・モリーナ(´;ω;`)引きずる・・・
視線の流し方や仕草のたおやかさでモリーナというキャラクターを完璧に掴んで全身で表現していて、オスカー受賞は納得!!
私にとっては『アダムスファミリー』のパパの印象が強いラウル・ジュリア。
モリーナと好対照な野性的瞳をしたヴァレンティンの役がピッタリで、彼のモリーナへの心情の機微が感じられる演技も良かった!

今や女性自体が失いつつあるかもしれない優美さや男性を抱擁し包み込むような母性をモリーナはその内に持っていて、人間的にとてもチャーミングだし素敵だ。
でも、その優しさはきっと傷ついてきたからこそのものなんだろうなというのも繊細な様子から窺える。
モリーナは自分が観た映画の話を寝る前の子供に読み聞かせるようにヴァレンティンに語る。
ヴァレンティンは時折質問などして話の腰を折るけれど、ちょっとムっとしながらもモリーナはそんな会話すら楽しんでいたように思う。
あんな風に映像を自分なりに表現して聞かせて、それについて語り合うってなんかイイな。

モリーナが語る映画の世界と、現実の世界が少しづつ混じり合うようにリンクしていく。
物語の中で蜘蛛女が流した涙。
さて逃れられない運命の糸に絡み取られてしまったのは一体誰だったのでしょう。
保護し、慈しみ、愛情をそそぐ・・・しかし、その事こそがやがて自分を苦しめる。
やっぱり切ないよモリーナ。
二人の間にあったのは紛れもない愛だった。
これは“あなた”でもなく、“わたし”でもなく、“私達”の物語だったんだよね。