marusei

蜘蛛女のキスのmaruseiのレビュー・感想・評価

蜘蛛女のキス(1985年製作の映画)
4.5
20年位前に姉がこの作品が凄く心に残って良かった…と呟いていて、以来、ずーっと「いつか必ず観よう」と思っていたけど、気付けばこんなに月日が経ってた。
こんなに素晴らしい作品ならもっともっと早く観ればよかった。

同じ房に投獄されている2人の男…1人は同性愛者のモリーナ、そしてもう1人は政治犯のヴァレンティン。
モリーナはヴァレンティンに自分の大好きな映画の話を語り続け、投獄生活の中で必死に絶望感にさいなまれまいと自分の世界を大切にする。印象的なのはモリーナの寝台周り。憧れの女優のポスターや彩り豊かな寝具類。
初めは同性愛者に侮蔑的なヴァレンティン。しかし、次第に同性愛者であるが故のモリーナの苦悩と献身的な彼の愛情の深さに心を開いて行く。
モリーナには使命があった。政治犯であるヴァレンティンから未だ掴めていない同胞の情報を聞き出す事。刑務所長と警察当局から保釈を条件に課せられていたのだ。
徐々にモリーナに心を開いて行くヴァレンティン。
途中、モリーナがヴァレンティンに語る「蜘蛛女」の話はモリーナが自身を例えた作り話なのか…?

この作品は兎にも角にもモリーナの機微な心情を丁寧に丁寧に魅せているシーンが本当に素晴らしい。同性愛者モノの作品は…と思うなかれ。この作品に限っては同性愛者という枠を超え、どのような人間も愛を求める普遍性を考えずにいられない。

意図的に保釈されたモリーナ。
「人生を整理する時が来たんだ」
寝ている年老いた、愛する母親にこれまでの宛てのない自分の人生に決別する事をそっと告白するシーン。胸が締め付けられそうになる。

ラストのモルヒネで眠るヴァレンティンの夢の中のシーン。愛する相手は皮肉にもモリーナではなく当たり前だが恋人マルタ…!
それが余計にモリーナの愛を切なく切なく感じさせる。
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