五月王

こころの湯の五月王のレビュー・感想・評価

こころの湯(1999年製作の映画)
5.0
北京の下町の古い銭湯を老主人と知的障害の次男が切り盛りしている。
そこへ昔家を飛び出したまま絶交状態だった長男が、父が病気と勘違いして帰ってくる。


銭湯は近所の住人が憩う社交場になっており、蟋蟀試合のライバル同士の諍い、恐妻家の男の壮絶な夫婦喧嘩、オペラを熱唱する男の秘密、など様々な挿話がユーモラスに温かく描かれる。
次男は銭湯と父親が好きでたまらず、父親も愛情いっぱいで面倒を見ている。
長男もそんな父子と接するうちに過去の確執が次第に溶けて行く。
しかし、都市開発により銭湯も周辺地域も取り壊されることが決まっている。
それと命運を共にするように父親の健康にも影が差し、次男の将来にも不安が募る。
長年親しんできた古き良き地域社会が、否応なく世代交代を迫られる。
その中で心地よい湯のように温かな人情を保ち続けていけるのだろうか。
時代の変化を誰もが諦め顔で受け入れる中、唯一次男の素直な叫びだけが本当の気持ちを代弁している。

一つ一つのエピソードがとても丁寧に描かれており、役者の演技も素晴らしい。画面も緊密で、やはり小津映画の影響も感じる。
心にしみこむ素晴らしい映画だ。

(2013鑑賞)
五月王

五月王