ノラネコの呑んで観るシネマ

彼のイメージのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

彼のイメージ(2024年製作の映画)
3.9
TIFF。
ある女性の死から始まる物語。
彼女の幼馴染で、一時は恋人だった男性シモンのモノローグによって、彼女の人生が紐解かれてゆく。
コルシカに生まれたアントニアは、70年代末の10代の頃に写真に出会い、やがて写真家として地元新聞社に勤めるようになる。
そして映画は彼女の人生に寄り添いながら、8、90年代に熾烈を極めたコルシカ独立運動を描いてゆく。
最初の恋人は、ラジカルな独立運動の活動家で、刑務所に出たり入ったりを繰り返す。
やがて独立運動の組織同士が敵対し、本来の対フランス政府ではなく、コルシカ人同士で殺し合うように。
目出し帽で銃を構えた活動家に熱狂する人々とは対照的に、彼女の心は冷めてゆく。
過激派が身内同士で抗争して衰退してゆくのは、何処かの国でも見たようなデジャヴ感。
映画はアントニア、そして彼女を語るシモンを窓とし、一人の女性の短すぎる一代記と、ある一時代を象徴的に描写する。
彼女の死は事故とも自殺ともとれるのだが、調べてみると独立運動が内ゲバ化して支持を失って行く時期と重なっているようだ。
内容的には現代史好きにはとても興味深いのだけど、淡々とした物語でぶっちゃけ面白味には欠ける。
特に映像的な抑揚があまり無くて、カメラがキャラに寄らないので感情が伝わってこない。
おそらく、作者が描きたいのは、アントニアを通した時代そのものなんだろうが、もうちょっと主人公に感情移入させても良かったのでは。
これベンチマークすべきは、ある男の死から韓国現代史を描き出した「ペパーミントキャンディー」なんじゃないかな。
でも欠点はあれど、決して嫌いな映画ではない。