ベビーパウダー山崎

エフィ・ブリースト デジタルリマスター版のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

4.0
ドラマチックな場面はすべて排除され、映るのはただ悪い方向へと流れ流され、不幸に衰弱していくハンナ・シグラの哀れな姿のみ。唯一、感情が振り切れるのが、椅子に顔を埋めながらの呪いのような独白。異様なキャメラ位置からのアップに感嘆。
サーク仕込の鏡を使いまくっての人物配置は見事、森での移動撮影&長台詞なんて実際に撮るとなると気が狂うほど大変だと思うが、これだけ自由に、そして完璧に映画表現している作家なんてほとんどいないのではないかと改めてファスビンダーRespect。
溢れ出るナレーションに「小説」としてのセリフ、場面場面で断ち切られる構成、雰囲気は物静かなんだけど情報量が多くて、ノイズまみれの『第三世代』に繋げたくなったり、それにしてもファスビンダーは生き急いでいる。凡人より脈が早い。
救いもないし誰も反省しない、ひとり惨めに死んでいくハンナ・シグラの許しさえ自分勝手の成れの果て。父母は「親として何とかできたかもねえ」と娘の墓を眺めながらのティータイム。
自分がどう生きようが世界は地獄で、情けはタダだが、追い詰められるほど誰も助けてはくれない。見栄と搾取。社会(のシステム)とはそういうもので、人生は、どうしようもないからと諦め豚として食われるか、それとも死を顧みずに抵抗するかの二択しかない。