ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の戦争を背景としたドラマです。『マリア・ブラウンの結婚』(1979年)など「西ドイツ三部作」と同時期に作られた作品なので、テーマも作風も近いものがあります。どうせだったら「西ドイツ四部作」にすればよかったのに。
ストーリーは戦時中にヒットした曲『リリー・マルレーン』を歌った歌手の自伝が原案となっていますが、ほぼオリジナル脚本となっています。売れない歌手のヴィリー(ハンナ・シグラ)はスイスに住む裕福なユダヤ人家庭の長男で音楽家のロバート(ジャンカルロ・ジャンニーニ)と愛し合っている。しかし、ナチスの勢いが増し、2人は離れ離れになるのだが……という話です。
愛する2人が分かれ離れになる設定は『マリア・ブラウンの結婚』とも共通していますね。不在の間に別の男性と関係ができてしまうのも同じ。設定は違えど、この二つの作品には多くの共通点があります。主役のマリア・ブラウンも本作のヴィリーも同じハンナ・シグラが演じていますしね。しかし、流行歌の歌手の舞台やスパイとしての緊張感など、エンターテイメント性は本作の方が上です。
しかし、作品としての奥深さは『マリア・ブラウンの結婚』の方があると感じました。現代だったら2時間以上のドラマになりそうな題材をファスビンダー監督特有の高速ストーリー展開で回す。あれよあれよという間に話が進む。『マリア・ブラウンの結婚』の方がストーリー的にはシンプルだったので高速ストーリー展開がよりフィットしていたのだと思います。