イチロヲ

風のイチロヲのレビュー・感想・評価

(1928年製作の映画)
4.5
新天地を求めてテキサスへとやって来た女性が、絶えず吹き荒れる砂嵐の影響により、強迫性障害を発症させてしまう。ドロシー・スカーボローの同名小説を映像化している、サイレント末期のサスペンス映画。

硫黄の残り滓を飛ばすことにより、風の可視化を実現させている作品。風という自然現象により、脳みそがいとも簡単にエラーを引き起こしてしまう恐怖。ビスクドールのようなリリアン・ギッシュが壊れていく過程に、サディスティックな感情が揺さぶられる。

ヒロインは、町の男を浮かれた気分にさせて、従兄の妻から嫉妬心を向けられてしまう。そして、好きでもない粗野な男と結婚しなければならなくなる。何となく、安部公房・著「砂の女」の男女逆転版のような雰囲気すら感じさせる。

人生経験の浅い娘(リリアンはすでに三十路だが)が、逆風に逆らいながら、自分の殻を破っていく、純然たる自己実現の物語。突風を真正面から受けても、頑なに目を見開く演技をするのは、示唆的な演出だと思いたい。
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