東アジア反日武装戦線“さそり”のメンバーで指名手配を受けた桐島聡の生涯を、元・日本赤軍メンバーで指名手配を受けた足立正生監督が想像しながら描いた作品。製作は新宿ロフト代表の平野悠。題名「逃走」は「闘争」にもかけている。
東アジア反日武装戦線にまつわる初めての劇映画となる。本作監督の足立正生が脚本を書いた「天使の恍惚」(1972)の50余年後の続編とも言える。爆弾闘争を描いた同作は当時の若者に影響を与え、明治学院大学の学生だった桐島は映画公開2年後の1974年に連続企業爆破事件に関与する。当時20歳だった。それから50年間逃亡を続け、2024年に入院中の病院で自身の正体を名乗り4日後に末期がんにより死亡した。享年70歳。
映画は桐島への限りない同情を込めて描かれていた。序盤、東アジア反日武装戦線の各グループが顔を合わせる秘密会議のシーンは「天使の恍惚」のファースト・シークエンスを想起させる。劇伴も同作の山下洋輔トリオを彷彿とさせるフリージャズだ。まるで桐島たちが「天使の恍惚」を真似たかのように。即ち、足立監督が彼らに影響を与えたことを認めているように受け取れる。だとすれば本作は、足立監督の桐島への“落とし前”と言えるだろう。
個人的に「狼煙を見よ:東アジア反日武装戦線“狼"部隊」(1987:松下竜一)を中学生時代に読んで衝撃を受けた憶えがある。彼らの主張は“アイヌ差別、朝鮮人差別の原因は戦後もはびこり続ける日本帝国主義とその影響下にある社会構造にあり、元凶である天皇制と財閥を打倒する必要がある”というもの。暴力手段は論外だが彼らの言い分には腑に落ちるところもあった。
本作では、彼らの最終目標だったレインボー作戦(昭和天皇爆殺作戦)も言及された。一昔前であれば右翼からの襲撃を受け上映中止に追い込まれたかもしれない。しかし、もはや50年も前の話であり過去の歴史となったということなのだろう。
それでも、本作では「闘い続けるぞ!」との叫びが発せられる。それは故・桐島聡に対する足立監督の宣言に聞こえた。赤軍―PFLP(パレスチナ解放人民戦線)の闘いは今も終わっていないのだ。