[己の欲望と向き合えないエマニュエルの精神世界へようこそ] 80点
オードレイ・ディヴァン長編三作目。昨年の経験からサンセバスチャン映画祭でプレミア上映される作品はちゃんとサンセバスチャン映画祭でプレミア上映される理由があると学んだわけだが、その学びが一年後にしっかり活かされるとは思わなかった…というくらいの荒れっぷりをみせていたが、こりゃあスゴいな。まぁ確かにいわゆる"エロい"シーンはほぼないので、ギンギンで行った人たちは諸々へし折られてキレてんのかな。物語は親企業の命令で、香港にある高級ホテルを調査しに来たエマニュエルが主人公となる。彼女は従業員がルールを守っているのかサービスが行き届いているのか目を光らせる一方で、バーで喋ってた不倫カップルに突撃して3Pするなどムッツリスケベっぽい行動を続ける。彼女がホテルから出ないのはそこが彼女の精神世界ということであり、地面から離れた高層階で厳格に仕事をするバリバリしごでき人間という空気を醸し出しつつも、ゼルダの指摘する通り"身分を(転じて自分を)偽っている"側面も見え隠れしてくる。そんな中で彼女はミステリアスな日本人男シノハラに出会う。唐突に現れて消えるという彼の存在は劇中でゴーストとも表現され、上映後に監督本人は"エマニュエルの分身"とも言っていた。彼の存在を通してエマニュエルが己の欲望と向き合い、自分の物とする瞬間は美しいものだった。シノハラとは同じ階に泊まってるというのもポイント高い、高層階でまず自分に向き合い、そしてホテルを抜け出して地面に足をつけるのだ。そして、冒頭のセックスが"相手"のセックスなら、帰結のセックスは"自分"のセックスとなったわけだ。しかし、どうにも脚本がバカすぎる気がする。ノエミ・メルランの物憂げな顔を映し続けるだけの時間とかあるし、台風の日に停電しちゃったけど、従業員みんなで乗り切りました!みたいなエピソードとかマジで謎。極めつけはシノハラがホテルで寝ない理由が、毎日雀荘でオールしてたというトンチキ具合で笑ってしまった。もっと他にやりようがあっただろ!しかも、この時代に自分の鏡像がイケメンアジア人て、ゴリゴリのオリエンタリズムやんか、と思うなど。そこだけ原作準拠ならエマニュエルの屋号は要らんのでは?というか、全体的にエマニュエルの屋号は要らんのでは?あと、フランス製作なのに全員が英語喋ってるのも気になった。精神世界が別の言語喋ってるという設定なのか?むしろ逆なのでは?ちなみに、上映後に監督と日本人ゲストのトークがあったんだが、このゲストがずっと"どう観たらそうなる?"みたいな解釈を垂れ流してて吐きそうだった。