このレビューはネタバレを含みます
若き日のドナルド・トランプを描いた伝記映画。
ドナルド・トランプの半生の中でも、彼のメンターとなるロイ・コーンとの出会いから別れまでが主に描かれます。
印象的だったのは、若きトランプが良く言えば純粋で、悪く言えば空っぽな男として描かれていた事。
普通の人間ならば持ち合わせているであろう、正義や信念といったものが彼にはまるでないんですよね。
そんな人間だからこそ、ロイ・コーンの教えに倫理的な疑問を抱く事もなく、すっかり染まってしまったのでしょう。
とにかく勝てば良いという価値観だったり、弱者やマイノリティーへの共感性の欠如など、段々と私達が知っているトランプに近づいていくトランプ。
資本主義を内面化する…というよりも、資本主義と一体になった人間の究極形態がドナルド・トランプなのかもしれません。
それにしても、トランプを演じたセバスチャン・スタンの演技が凄かった。
顔自体は似てないんですが、表情や仕草の再現ぶりが素晴らしく、「トランプぽいな~」と唸る場面が多々あり。
特殊メイクに頼ずとも、ここまで実在の人物に寄せる事が出来るものなんですね。
正直、映画としては前半の40分がマックスと言いますか、後半は予想してた通りの展開になっていくし、トランプのビジネスの才覚についても、もっと突っ込んで描いて欲しかったなと。
実際、彼は何度も破産を経験しているわけで、その辺の描写はちょっと曖昧に感じました。
まぁ、そこまで描く時間はなかったのかもしれませんが、折角ならトランプ=ビジネスマンというイメージにもメスを入れて欲しかったです。
この映画のトランプを見る限り、おそらく彼は勝つ事にも、金を稼ぐ事にも、大した意味は見出していないのでしょう。
彼自身は今も空っぽで、ただただ、世の中が勝つ事や金を稼ぐ事を是とし肯定する世界観だから、何となくそれに従っているだけなんじゃないかな。
こんなに問題のある男を否定しきれないのは、私達もまた資本主義の中で生きているからであり、彼はその象徴に過ぎないのです。