ザック・スナイダーの脚本・監督による壮大なスペースオペラ二部作の完全版で、その前篇。
オリジナル版でも約2時間半 (148分) という大ボリュームだったが、このディレクターズカットはなんと約3時間半 (204分) もある。
作品そのものの評価はさておき、監督が語りたい物語が隅々まで具現化された映画であることは間違いない。
もともとは「スター・ウォーズ」の完全新作として構想されながら、結果的に監督オリジナル作品として脚本を構成し製作された作品という経緯があり、この物語が「スター・ウォーズ」の世界観で作られたらどんな感じになったのだろうと想像しながら観賞する楽しさはある。
「スター・ウォーズ」の創造主であるジョージ・ルーカスが「隠し砦の三悪人」等の黒澤明の映画や日本の伝統文化に大きな影響を受けて世界観を作り上げたことを倣ったのか、この作品も明らかに黒澤明の「七人の侍」を参照していることが分かる。
戦乱の時代、悪政により窮地に追い込まれた平民達を救うために、腕に覚えのある戦士達が反乱を起こすというプロットは、古典的ではあるが単純明快なので、世界中の人々に広く理解できるものとなっている。
オリジナル版から約1時間もボリュームアップした主要な部分は、オリジナル版ではほとんど語られていなかったキャラクター数人のバックストーリー。
R指定のディレクターズカット版は、残虐描写や性的描写に全く遠慮がなく、もともとオリジナル版にもあった数々の戦闘シーンも細かいVFXや編集効果が変わっていて、この作品の悪役である帝国の残虐性がオリジナル版よりもダイレクトに伝わってくる。
ただ、そういった数々の「監督が本当に具現化したかったこと」を過剰なまでに完全にやりきったディレクターズカットであっても、オリジナル版を観賞した時に感じてしまった別の部分での物足りなさは、変わらず残っているように感じた。
描写が過激でも、充分な時間を費やしても、語られる物語や世界観自体に既視感があり、教科書通り過ぎて斬新さに欠けるというか…
主人公が共に闘う仲間を集める形で物語が進む中で、主要なキャラクターのバックストーリーも丁寧に語られていくが、まぁそういうことでしょうねといった感じで予想の範囲を超えないものが多く、過剰なほどにドラマティックな映像や楽曲の演出をもってしても、いまいち引き込まれない。
帝国の宇宙戦艦の心臓部に拘束され動力として酷使されている? 巨大な人型生物の描写は個人的にとても新鮮に感じ、他の映画監督や脚本家にはなかなか生み出せないセンス・オブ・ワンダーな部分だなと感じたが、画的に飛び抜けた面白さを感じたところはそれぐらいで、他はこれまでのザック・スナイダー監督作品で見てきたアングルやモチーフにどこかしら近似している部分がほとんどで、新鮮さがなかったことが残念だった。
ディレクターズカットとオリジナル版で物語が大きく違うわけでもないので、監督のよほどのファンでない限りは、オリジナル版を観賞することで充分かも。
https://www.shojitaniguchi.com/cinemareview