子供の頃に祖父の部屋で嗅いだ 本と煙草と革とインクの混ざったような匂い を思い出させる映画だった。
一両編成のローカル線が森を抜けて走る。それだけでもう、旅の始まりだとワクワクしてしまう。
主人公の男は移住のためにやって来て、かつて時計店だった古民家の元の持ち主の老人から説明がてらの昔話を聞く。老人にとってはそのまた祖父との思い出が染みついた家だ。細部の装飾に手の込んだ建物は、街が繁栄していた時代を思い起こさせる。
主人公は街を歩いて住人の話を聞く。江戸時代の地図のまま歩ける城下町は、いくつもの時代が層のように同時に画面上に存在しているように見えてくる。時間軸の上を旅する不思議な感覚だった。
森の中のローカル線に乗りながら聞こえてくる音楽はなぜかハワイアン。でもゆったりしていて合っていた。
風情ある古民家と同時に、空き家になって取り壊されたり、その危機にある建物も目に入る。ヨソモノは勝手にロマンを感じるが住人にとっては狭くて不便な街でもある。
切ない現実に戻って時間の旅は終わった。