ホロコーストを生き延びてアメリカへと渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トートの戦後を3時間半の長尺で描く大作。主演は「戦場のピアニスト」の主演で知られ、自身もユダヤ人のルーツを持つエイドリアン・ブロディである。
終戦時に強制的に引き離されてしまった妻と姪との再会と新しい生活を目指し、ペンシルベニアで礼拝堂を構える巨大建造物の建築を任される事になったラースローであったが、そこでも人種差別を受け、更には出資者であるハリソンから様々な圧力を掛けられる事になってしまう。
本作のテーマの筆頭を挙げるとすれば、そうした社会の抑圧に対して、建築家が作品を通じて意思を表明し続ける事の大切さという事になると思う。そのテーマを体現するために、本作では実際の建築物が台詞以上の強いメッセージを放つ。
また、作品を通じた意思という点は、映画としての本作そのものに与えられた使命でもあるように感じる。
このストーリーでありながら、ナチスやホロコースト云々に触れる副題を付けなかった事、いかにも実話ベースっぽい構成でありながら完全なフィクションである事など、観客を定型的な鑑賞に向かわせない攻めたディレクションがとても良い。そのおかげで、Filmarksにアップされているレビューのアングルも様々。映画の楽しみ方はこれで良いと思うのだ。