優しいアロエ

男性・女性の優しいアロエのレビュー・感想・評価

男性・女性(1966年製作の映画)
3.6
〈「わかる人にはわかる」ってよ〉

 ゴダールは60年代半ばから政治批判性を強めていったようだが、その嚆矢と言えそうなのが、この『男性・女性』だ。

 本作は、フランス発祥のドキュメンタリー映画スタイル「シネマ・ヴェリテ」を活用しているという。「シネマ・ヴェリテ」とは、手持ちカメラや同時録音を用いながら取材対象に“ヴェリテ(真実)”を語らせるもの。製作者がインタビューなどを通して当事者に介入するため、ドキュメンタリー映画への製作者の作為の混入を意図的に露わにすることになる。

 ただし、本作『男性・女性』はドキュメンタリー映画ではない。しかし、「シネマ・ヴァリテ」式にキャラクターたちにインタビューを行い、その反応と返答を窺うことで、記録映像のような雰囲気を醸し出している。同じ手法をとった劇映画としては、トリュフォー『大人は判ってくれない』やノエ『CLIMAX』が思いつくので、これはヌーヴェルヴァーグ系列に好まれる手法なのかもしれない。

 これにより、『大人は判ってくれない』は深刻な子どもの物語をこちらに迫るように語り、『CLIMAX』は常軌を逸したダンサーたちの舞台裏にリアルな緊張感を施した。本作にはそれほどの効果は感じなかったが、政治やセックスについて若者が本音を語っているような錯覚はそれなりに得られた(とはいえ、そのほとんどがゴダールの脚本なのだろうが)。

 しかし、当時のフランス政治にも哲学にも明るくないから、真に言いたいことがわからない。反戦・反ファシズムを掲げた「人民戦線」や「社会主義」がキーワードになっているのと、「この映画は〈マルクスとコカ・コーラの子どもたち〉と呼ばれたい」という文字が頭に残っている。「コカ・コーラ」は無知やセックスの象徴なのかな。

 それにしても難しかった。「わかる人はわかる」という排斥的なゴダールの言葉に負けるものかとペンを片手に食らいつくも、気づけばカメオ出演のブリジット・バルドーに思考停止で喜んでしまっていた。
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